ホラー検証:小説

紹介全リスト
(オススメ度:だいだい) =特にオススメ
祝山
異形コレクションU 侵略!
 
オフシーズン
ナイトワールド・サイクル
 狂鬼降臨
 トンコ
 鏡地獄
 夜市
 火車
 そのケータイはXXで
 黒猫/ウィリアム・ウィルスン
 ゴルディアスの結び目
 氷雨心中
 死んでも忘れない
 8.1 ハチテンイチ
 メドゥサ、鏡をごらん
 GOTH リストカット事件
 七つの怖い扉
 魍魎の匣
 クリムゾンの迷宮
 ドグラ・マグラ
 日本残酷物語
  


祝山(いわいやま) ―― 加門七海
 (光文社文庫/2007年作品/税抜価格 540円)

 ホラー度:★★★★(派手さはなく、リアル重視。心霊スポットに行った4人が、様々な異変に見舞われる。神仏に対する恐れも描かれています)
 面白さ :★★★★★(「心霊スポットに行った者達が呪われていく」という話をストレートに描いている。大筋に意外性はないが、話の運び方に小さな意外性がたくさん盛り込まれていて、飽きさせない。個人的には、ラストのドラマにやられました)

 (あらすじ: 思いがけない、昔の友人からのメール。仲間と4人で心霊スポットに行き、皆、様子がおかしくなったので話を聞いて欲しいという。主人公はホラー作家で、多少の霊感らしきものがある。友人の体験が、書きかけの小説に似ている部分もあるので、話を聞いてみる。聞いてみて、つまらない話だと当初は思っていたが、やがて事態は悪化していき、怪異は主人公の元にまで及んでいく…)

 (一言: 題材はありきたりなんですが、プロが書くとこうも面白い話になるのか、と感心。木々に侵食された廃墟の奥で見た不吉な仏壇。心霊写真。治らない腕のかぶれ。人格の変貌(へんぼう)。恐怖要素もふんだんに盛り込まれていて、飽きさせない。人間ドラマの描かれ方も上手い)

●いきさつ 

 全然関係ないんですが、作家の大沢 在昌(ありまさ)さん「売れる作家の全技術」という本を読んでいたところ、「ミステリーを書くなら、(既成の謎解きや仕掛けなどを知るために)最低限でも1000冊の読書は必要」という教えに、頭をガツー……ンとやられまして。
 自分はミステリーを書くワケではないのですが、「ホラーを書くのなら、それなりにホラー小説も読まないとな」と気持ちを新たにさせられました。昔はそこそこ外国小説を中心に読んでいたのですが(スティーヴン・キングを主に)、近年はめっきりでしたので。

 で。ネットで、ホラー小説のオススメみたいなところに、この「祝山」が高評価で紹介されていたので手に取ってみました。ひかれるものもありましたので。
 「心霊スポットに行った者達が呪われていく」……というような、あまりにも単純な話みたいですが、それをプロがどう描いているのか? ましてや高評価を得ていますからね。読めばきっと、得るものも大きいだろうと。

●レビュー

 読んでみると、すごく読みやすい。文章に堅苦しさがないんですね。改行もやたら多めで(読点(。)の度に改行するという、いきすぎの部分も多)、「あぁ、こういう書き方をしてもいいんだ」と早速、手ごたえを感じたりしていました。(と言うか自分、どんだけ小説を読んでいないのか、と……)
 スイスイ読んでいけて、自分にはめずらしく短期間で読んでしまいました(2日ほど)。自分、小説を1冊読むのに1ヶ月以上とか平気でかかってしまって、しかも投げ出して終わり……みたいな事が多々あるので、そういうのはほんと、やめた方がいいですよね……。
 と言うかこの本、改行が多すぎなんで、それらを縮めたらかなり薄い本になってしまいそう。

 話は単純で、「心霊スポットに行った者達が呪われる」という話。特にひねられている事もなく(もちろん、話に肉付けはありますが)、ストレートにそのまんま。
 主人公はじゃっかんの霊感を持つ、ホラー作家。昔の友人が急に、メールで連絡をとってきた。「心霊スポットに行ってから、自分を含めた仲間の様子がおかしくなったので、相談に乗って欲しい」との事。
 ちょうど似た感じの小説を書いていて、しかも進み具合が悪かった事から、参考にならないかと思って、主人公はその話を受けてみる。

 その4人に会って話を聞いてみても、「つまらん話だな」と主人公は思っていたのですが……次第に4人の様子がおかしくなっていき、その心霊スポットが何なのかを調べていく内に、不穏なものを感じ始める。やがて怪異は主人公をも巻き込んで行き……という感じ。
 リアル重視の物語なんですが、一応、呪いっぽい描写(現実らしからぬ描写)がダイタンに描かれてますね。

 ●作品レビューというより、物語の描かれ方を分析

 「心霊スポットに行った者達が呪われる」。どうしてこんな単純明快でどこにでもありそうな話が、面白く読めたのか。

 それはまず、「登場人物それぞれが、ちゃんと一人の人間として描かれていた」という点が大きいでしょうか。毎回思うのですが、プロはこれが異様に上手いんですね。だからこその、プロなんでしょうけど。
 ただ、矢口、小野寺、などという感じに名前があるだけじゃなく、彼らの個性がにじみ出ている。脇役でもちゃんと趣味があり、そして作品に重要なアイテム(心霊写真)を提示したりする。
 「キャラ一人一人にちゃんと役割がある」んですね。怪異に襲われている4人それぞれが「記号」じゃなく、ちゃんとした「人間」になっている。こういった基本的な部分でもう、アマとプロの差を見せつけられた感じがします。
 話は戻りますが、大沢 在昌さんもキャラ造形にはかなり力を入れているみたいですね。強いキャラがストーリーを産むのだ、と教えてくれています。

 あと、恐怖場面は何も人が死ぬとかそういう事じゃなくてもいいんだ、という事を改めて教えられた気がします。
 ――木々に侵食された廃墟の奥にあった、黒い仏壇(ぶつだん)
 もう、想像しただけで気持ち悪い。なお、4人の中で1人だけ、「そんなものは見なかった」という切り返しもまた上手い。それが謎になり、最終的には不吉な恐怖へと変わっていく。

 ●

 ちなみに、4人に心霊スポットでの体験談を聞く時の文章の書き方が、変則的なんですけどね。
 例えば、「朽ちた家は木造家屋だ。かなり本格的な造りで、上がり框(がまち)などは、檜(ひのき)の一枚板を使っている。建てた当初は、さぞ贅沢(ぜいたく)な建物だったに違いない」という文章。

 何が変則的かと言うと、聞いた話を即、主人公が自分で見てきたかのように変換してしまっているんですね。これってヘタすると正規の書き方じゃない気がするんですよ。読んでいて、ちょっと違和感を感じるんですね。「この文章の視点は誰のものだ?」と。
 そんな文章が、このシーンだけに集中している。多分、作者さんは狙ってやっているんだと思います。このシーンを印象づけるために。このシーン恐怖度を上げるために。臨場(りんじょう)感を生み出すために。

 場の気持ち悪さがダイレクトに伝わってきます。これはこれで面白い書き方だな、と思いました。

 ●

 なお、読んでいく先々で様々な怪異が起こるので、全編ダレずに読めました。人間そのものが変わっていく、というのもなかなかに怖いものだな、と思いましたね。

 題材通り(心霊スポットに行った者達がうんぬん)、ほぼ素直に描かれた物語でしたが、引き込まれましたね。
 もしかすると、題材通りの人間達を外から見ている(主人公は、彼らをやや冷たい目で見ている)物語だからこそ、ノレたのかもしれません。主人公が率先して心霊スポットに行って呪いを受けてくるキャラだったら、もしかすると……どうだったかはわかりません。
 題材1つでも、それに対する物語の書き方は、やはり様々あるんですね。

 ●怒りすぎの主人公

 アマゾンの評価が気になっていくつか読んでみたんですが、意外と低評価の意見もありますね。
 主人公の言葉使いが汚い、という話。確かにそうなんですね(思考部分ですが、「てめえらみたいのが、ウロウロするから、こっちが迷惑するんだよ」など)。この主人公、ちょっとガラが悪い。でもそれは人並みの毒程度かな〜という範囲ではあるのですが、読み返してみると主人公、意外とらだっている描写が多いんですね。
 でもまぁ、他人に優しい聖人みたいな人が主人公でもウソくさい気がしますし。人間性のダメな部分を前面に押し出しちゃうのもまた、「生きた」感じがするんじゃないかな、と。
 この部分に関しては、完全に賞賛はしませんけどね。

 こんなフザケた事をするヤツがいる。頭にくる。→読者は「あぁそうだよね」と同意する。みたいな図式を狙っているのかもしれませんが……ちょっと怒りすぎですね、この主人公。

 ●思わぬドラマにうるっと…

 意外と派手さはなく、ラストも何となくが想像がつく流れなんですが(とんでもない事をしてちょっとビックリ、というのはありますが)……なかなかにしんみりするドラマが描かれていたりして、うるっと来てしまいましたね。急激に好きになりました、最後の最後で。
 この作品、映画かマンガで見たいなー、と思ったり。

 好きな小説がまた1冊、増えました。ちょっと、どストライクでした。やられたーという感じ。ホラー小説でも、こんなに極上のドラマが描けるんだなーと感心しました。やっぱり「小説の基本は人間を描く」という事なんですかね。大沢 在昌さんの教えも、納得がいきます。
 もちろんドラマだけでなく、主人公やその周囲に災いがふりかかっていく過程を描いた物語そのものも、非常に面白怖かったです。

 怖さの描かれ方はほんと、リアリティ重視という感じでしたね。異様なんだけど、リアルさが残る範囲で描かれている。派手に、化け物が出てきたりはしないんですね。心霊写真もほんと、抑え気味の描写で。
 そうそう。途中、あまりにも怖かったため、主人公がメールに添付されてきた写真を見ないまま削除してしまうシーンがあるんですが、こういうのも上手いなぁ、と感心しました。描かれなかった部分に何があるのか。そういう「想像させる恐怖」というものも、なかなかにツウ好みかな、と。

 しいて気になる部分を挙げれば、主人公の話相手になる友人がいらないキャラだったかな、と。物語に深く関わってくるワケでもなかったですし。いなくても、物語は成立してた気が。


 異形コレクションU 侵略! ―― 井上雅彦 監修
 (廣済堂文庫/平成10年2月初版/税抜価格 762円)

 ホラー度:★★★★☆
 面白さ :★★★★☆

 (一言: 18人の作家による、書き下ろしホラー短編集。今回のテーマは「侵略」。様々な舞台、様々な切り口、様々な恐怖がここに。思わぬ名作と出会えたりして、自分に合う作家を見つける楽しみもある)

●いきさつ

 ホラー、と名がつけばとりあえず手に取ってみる。
 そんなかかんな時期に入手していたのであろう、この本。しかし本棚の隅にて、ずっと眠ったままになっておりました。
 それをやっと読む気になった。きっかけは「侵略」の文字が目についたからでしょう。宇宙人話、好きなもので。

 複数の作家が短編ホラーを競作。しかも一つのテーマに沿って書かれているのが面白い。

●レビュー(作品順&ピックアップ)

 「地獄の始まり」 かんべむさし
 
 小学5年生の息子、肇(はじめ)が突然「おかしいよ」と言い出した。何がおかしいのか聞いてみても、肇自身、よくわからないらしい。でも、何かがおかしいのはわかるようだ。
 ただの空想話かと思ったが、肇は日を置いたある日、今度は「近づいてきてる」と言う。だが肇以外の誰もが、その話が何であるのかすら、わからない。
 それがとうとう、「やってきた」。
 その頃になると、肇のように妙な事を言っている子供達が、実は世界中にいる、という事実が伝えられていた。

 果たして「やってきた」ものは何なのか。危機感だけがつのるものの、やってきたものの姿は、誰にも見えない……。
 
 >感想
 一言で言えば、さすがプロの書くものは違うなぁと。
 スローペースではじまった物語も、後半はかなりの壊れっぷり。ストレートではなく、展開も色々とゆがめられています。
 とにかく「あぁ面白かった」と言わせる物語を描くのが、やはりプロなんだな、と思いました。

 最初から最後まで、地球にやってきたものの正体が「見えない」というのも斬新(ざんしん)かと。

 ●「罪と罰の機械」 牧野 修

 <彼>は異世界から来た処刑機械。罪あるものを処刑する。
 他人を恐れ、意味もなく謝り続ける少女「妙子」。強姦、殺人もいとわない「ヨージ」。
 妙子と母親の乗る車が山道で脱輪し、ヨージの乗った車に助けられる。……と思いきや、ヨージはいきなり本性をあらわにし、母娘に暴行を加える。
 車に乗せ、湖の周囲を走っていると、廃ビルを見つけ、ヨージは興味半分に行ってみようと思う。
 そこで待っているのは……処刑機械の<彼>だった。

 >感想
 スプラッター描写満載のグロ小説。殺戮描写も細かく描かれています。
 <彼>のいる場所に偶然ながらもわざわざ行ってしまうのが、物語としてご都合主義的かなぁと思ったりもしますが、それはそれで。

 ヨージ、あっけなさすぎてもったいないです。
 そして<彼>のしつこさはまるで、B級ホラー映画を見ているかのよう。狙ったのかもしれませんが。
 <彼>の、機械と小生物が融合(ゆうごう)したような姿の描写は、なかなか面白いです。

 ●「夜歩く子」 小中千昭

 男は久しぶりに会った女とのドライブ中、宇宙人の子供を見た――
 それをTVの取材形式で追う。真相は果たして……

 >感想
 「ウルトラマンティガ/ガイア」「THEビックオー」「serial experiments lain(レイン)」などで有名な、脚本家の小中千昭さん。他、意外な所では「魔法使いTai!」「ふたりエッチ」などの脚本も手がけてらっしゃるご様子。多作家ですね。

 この作品は小説ではなく、脚本形式で書かれています。
 脚本形式だからこそ作品にリアリティを感じるのか、そしてラストが衝撃的に感じるのか。
 1回読んだ時は率直に「あんまり面白くない」と思いましたけど、よく読めば感じ方もまた変わってきたりします。

 書き下ろしなので、ちょっと冒険してみたのかなぁなどと思ったり。書き方が少し、斬新すぎた気もします。
 リアルを感じられるかどうかで、面白さが変わってくる、という感じですね。

 「雨の町」 菊地秀行

 日本一雨量の多い町――。ガイドブックのそんな一言にひかれ、私はその田舎町で電車を降りてみた。
 宿でひと息ついていると、タバコを切らした事に気づいた。仲居は「こんな雨の日は外に出るな」と言ってくる。過去にも何度か、どしゃぶりの雨の中に外へ出て行き、帰って来ない者がいたのだという。

 だが、タバコの自販機は宿からたかだか10メートルほどだ。傘を借り、私はタバコを買いに行った。
 そこで酒のにおいにつられ、居酒屋に入る。酒をいくらか飲み、店を出たところで突風にあおられ、傘を手放してしまう。その傘を追って、ほんの十数歩。気がついてみれば……、もはやそこにはさっきの居酒屋の影はない。探してみても、宿も見当たらない。
 私は、迷子になってしまっていた。

 >感想
 どしゃぶりの雨の中で迷子になる。そのいきさつがいいですね。
 主人公はかなり慎重になっているのに、ほんの一瞬のスキを何度か突かれて、見事に迷子になってしまう。

 その先、すぐに救いの手が差し伸べられるんですが、物語の軸はまた別のところにある。
 数年前に迷子になった子供が、同じようなどしゃぶりの雨の日に、またひょっこりと帰って来る……。そんな言い伝えがこの町にはある。
 しかし、その子を迎え入れた家はどうなるか……。

 面白怖いです。そぼくな田舎町でも、「雨」というフィルターをかける事で異世界にしてしまう、そのアイディアがいいですね。
 非常に、独特の雰囲気がただよう作品でした。

 ●「赤い花を飼う人」 梶尾真治

 とある都市伝説。「赤い花を飼う人」。姿形や会話などで見抜く事はできないが、それはどうもフツーの人間ではないらしい。
 そういった者が、人間とすり替わって、どんどん増えているのだという。
 その者の正体をあばく事ができるのは、その者特有のアレルギーを見つける事。アレルギー症状を起こせば、その者は正体を現すらしい……。

 私は、会社の上司、中野課長がそれなのではないか、と疑っている。
 そして私は、中野課長の正体を暴くべく、行動に乗り出すのだが……。

 >感想
 どこかズレている奇妙な者達。目に見えて害悪があるワケではないが、不安をつのらせる主人公。
 「赤い花」にちゃんと意味があるのがいいですね。全体的にややユーモアさを交えてあって、読みやすい。
 ラストのどんでん返しも気持ちいいです。

 ★★「彼らの匂い」 大場 惑

 50すぎの私が再就職。半年、職探しに明け暮れていたものの、職は見つからない。
 自信を喪失し、すっかり気力を失いかけていた頃、私を呼び止める者がいた。
 「日本臭覚研究所」。彼の名刺にはそうあった。
 そう。私にはたった一つのとりえがある。それは、鋭い嗅覚だ。以前「ブレンダー」という、たばこの臭いをかぎ分ける検査の仕事についていて、そこで破格の成績を収めていたのだ。
 
 研究所で様々な臭いをかぎ分ける訓練を受ける。その時、今までかいだ事のない臭いが混じっていた。強いて言えば、動物性の香料のような……。
 徹底して、秘密主義を貫き通すその研究所。訓練が終了すると、「ちょっとびっくりするようなもの」をお見せする、と言われた。
 それは一体、何なのか……。

 >感想
 臭いに関する新しい世界。新しい知識。かなり面白く読めました。
 リアリティも充分で、物語にノレました。この辺でもまた、さすがプロが書くものは違うな、と感心に至ったり。
 あくまでも紳士的な「彼ら」に好感を覚えました。

 ●……以降、ピックアップ作品のみ、紹介

 ●「命の武器」 草上 仁

 街を逃げる夫婦。私は妊娠している。
 カッコーと呼ばれる異形の生命体。それが霧の精子を撒き散らし、女子供、男まで容赦なく人間をはらませ、同類を産ませる。強制的に。

 しかし、私のお腹の中にいるのは、まぎれもなく人間の子供だ。妊娠1ヶ月で産まれるカッコーの子と違い、私のお腹の中の子は、正常に十ヶ月、体内に宿っているのだ。
 なのに、パトロールの人間達はわかってくれない。はらんだ女を片っ端から殺そうとするだけだ。カッコーを駆除するために。
 そんな時、カッコーが現れた。白い巨体。裸の女を2人、乗せている。

 カッコーのペニスから噴き出す白い霧を、ほんの少しでも浴びたら終わりだ……。

 >感想
 霧状の精子で、強制的に化け物の子を妊娠……しかも男まで。かなり恐ろしいです。
 SFの荒廃した町並みが目に見えるよう。そして全編がクライマックス。
 壮絶なラスト。化け物に侵略され尽くした人類に、果たして希望はあるのか……?

 「ママ・スイート・ママ」 安土 萌

 みよちゃんが幼稚園から帰ると、ママがお菓子になっていました。
 お腹がすいてガマンができなくなったみよちゃんは、少しづつ、ママを食べてしまいます。

 今度はお兄ちゃんのけんじ君が帰ってきます。お菓子の山となったママを、それと知らずに食べてしまいます。
 そしてパパまで……。

 感想>
 たった4ページの作品なんですが、面白いです。読みながら、どんどん不安になってしまいます。家族みんなで、お菓子となったママを、(みよちゃん以外は)それと知らずに食ってしまってるんですから。
 ラストの展開も、切れも最高級。さすがです。
 こんなに短くても、これだけ面白怖いホラー作品を描けるものなんだなぁと、かなり感心してしまいました。

●総評

 他、「子供の領分」(菅 浩江)、「花菖蒲」(横田順彌)という作品が面白かったですね。「花菖蒲」は京極(夏彦)作品を思わせる濃厚さを感じました。

 で。あんまりプロを悪く言いたくはないんですが……、読解困難で理解不能な作品がいくつかあったのも事実です。もう「何書いてんの?」とでも言いたくなるような……。
 でも18作もの「侵略」短編が読めるのだし、かなり楽しめた一冊ではありました。

 面白かったですね。他の異形コレクションも読んでみたくなりました。色々なテーマで、複数出ているようですので。


 鼻 ―― 曽根圭介

 ホラー度:★★★★
 面白さ :★★★★★

 (一言: 短編集。人がそれぞれ株価を持つSFじみた話の中、エリートが転落していく「暴落」。路地裏に監禁された悲劇を描く「受難」。違法の転換手術を行えば、助かるテングは大勢いる。ブタの「私」は悩む。一方、変態を追う刑事である「俺」。その2つの物語が並行して進んでいく「鼻」。3作どれもが非常に面白い。特に「鼻」のラストの衝撃度はかなりのもの)

●いきさつなど

 2007年、第14回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作、という事で興味が湧き、読んでみる事に。
 「暴落」「受難」「鼻」の短編3つが収められています。

●感想など

 ●「暴落」

 僕の名前は「イン・タム」。今は病院の一室にいる。
 僕はワケあって、目が見えないばかりか、全身が全く動かせない状態にある。田丸さんという若い女のヘルパーに、身辺の事をすっかりとまかせている。
 無口な田丸さんだったが、ある時、僕の過去の事を聞きたがった。
 僕は了承する。だが過去は、「地獄」だったのだ……。

 >「僕」の過去話が物語のメインとなります。
 さらに、この話の柱として、「SFじみたもの」も付加されています。全くの現実ではなく、空想も混じっているんですね。
 ……この物語独特の「株価」。それは会社ではなく、「人間」そのものの価値が、「株価」として流通しているんですね。だからみんな、自分の株が上がるようにと、善行を働いたり、悪い友人とは縁を切ったりする。

 僕は失敗できない結婚を控える身として、株価に常に気を遣っていた。
 しかし僕の周りで様々な事件が起こり、ワナにもはまり、僕は破滅へと転落していく……。

 ●

 出だしにいくつかのが出てきます。
 「僕」が何故、病院のベッドで寝たきりになっているのか。僕の名前が「イン・タム」なのは何故か。そしてヘルパーの田丸についての、いくつかの疑問……。
 読み終えた頃にはそれらの謎は全て解けているんですが、ホント、話に引き込むのが上手いと思いました。この物語独特の「株価」についても、最初は読み手に「どういう事だ?」と疑問を持たせる様な書き方をしているのがニクイ。

 主人公は「ミスキャスト」という会社に雇われたりもするんですが、そこでは人生の落伍(らくご)者を優秀な子供に見せる事によって、子供に向上心を与えようというねらいで作られた会社。そんなブラックユーモアなども交えてありますね。
 他にも色々と、社会への皮肉なども盛り込んだ作品だったと思います。

 面白く読めました。ラストもうならせてくれましたし。ホラーとしても充分すぎるほど、良かったです。
 SF(人間の株価、名前を売る権利など)が混じっているので、星新一さんのショートショートを読んでいるかのようでした。こういう作品もたまにはいいですね。

 ●「受難」

 俺は路地裏、ビルとビルの間に捕らわれていた。
 周囲は不法投棄のゴミだらけ。鉄の扉が20メートル先にあるが、この2日間、誰も来ない。そんな場所に、俺は手錠でつながれている。
 叫ぶ。助けを求める。しかし昼夜問わず、付近で何かの工事をしているらしく、音がかき消されてしまう。
 このままでは餓死してしまう。俺をこんな所に監禁したのは、一体誰だ……?!

 >一風変わった場所での監禁モノ。路地裏なので、助けはすぐそこにありそうなのに、ちょっとの差で誰も気づいてはくれない。  
 で、OL風の女が顔を出してくるが、頭がおかしい。助けようとはせず、何故か食料だけを置いて去っていく。
 それから何人か主人公を見つけてくれるものの、その誰もが助けてはくれない。おかしなヤツらばかりなのだ。
 そして事の真相を知り、主人公は……。

 結構ギャグまみれの話でしたね。主人公の怒りもよく伝わってきます。
 自分がこんな状況に置かれたら……どうするんでしょうね。いくら叫んでも誰も助けに来てはくれない。顔を出すのは、頭のおかしなヤツらばかり……。絶対に、自分を助けようとはしない。
 やはり手首を切断してでも(できる事ならば)逃げるしかないのか。状況は映画の「SAW」に似てるかも。

 ケンタロウという少年が惜しい。彼は手錠のクサリを切ろうとしてくれたので。まぁ残念ながら、歯が立たなかったワケですが。
 色々あって、主人公はケンタロウを怒らせてしまうんですが、何かちょっと違っていたら主人公は助かったかもしれなかった。そんな「ちょっとの差」というものが冒頭からずっと描かれていて、「助かりそうなんだけど、助からない」というもどかしさを感じる事ができました。

 これまた、ラストが印象的な物語でした。面白かったです。

 ●「鼻」 第14回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作

 この世は「テング」と「ブタ」の2種類いる。
 テングはブタに排除されている。だがそんな中、ブタである私は、テングの行列の中に、とある母子を見つけた。
 それは、死んだ妻トモミと娘リカの生き写しだった。
 彼女達の助けになろうと、私は名刺を渡す。

 そして彼女達は私の家に来た。私が医者だから、来たのだ。
 トモミは娘のリカに、手術をして欲しいと頼む。テングのままではいずれ殺されてしまうからだ。
 だがブタへの転換手術は禁じられている。私は手術をこばむ。

 ●

 主人公はもう一人。自分の臭いが異様に気になる「俺」。
 俺は刑事だが、仕事そっちのけで面白い事件を追っている。あやしい男。マスクをした変態が深夜に徘徊(はいかい)。実の娘を傷モノにしたという。……そのマスク男に会いたい。

 >ネタバレになるので詳しくは書きませんが、とにかくラストがあまりにも衝撃的。
 途中まで「この話はナンなんだ?」と面白いのかどうかもわからないまま読んでいったんですが、最後に全てが氷解。完全に打ちのめされました。
 「俺」の方はライトノベルのように、かなり砕けた口調なんですが……、こういうものでも充分に質の高いドラマを描けるものなんだな、と教えられた気がします。
 この作品は、一つの大きな爆弾を抱えているようなもの。途中の経過などはあまり重要ではないし、読み進めていくだけの「話」に過ぎない。
 ……ラストだけ。多少、色々な解釈のできるラストではありますが、この作品にあるのは、それだけです。

 ●

 ……さすがはプロだな、と。日本ホラー小説大賞短編賞受賞は、まさに納得。
 なかなか、こういう作品は書こうと思っても書けないものだと思います。氏独特のSFめいたものが、実に効果的でした。

 「暴落」「受難」「鼻」。その3作のどれもが非常に面白かったのですが、衝撃度で言えば、やはり「鼻」が一番だと思います。
 この本。プロの作家とはどういうものか、という事を久しぶりに教わったような気がします。オススメですね。


オフシーズン ―― ジャック・ケッチャム

 ホラー度:★★★★★★(容赦なく残酷。スリル満点)
 面白さ :★★★★★(意外な展開。生き残れる者がいるのか、予想もつかない)

 (あらすじ: カーラは田舎の一軒家を購入した。遠くから遊びに来る妹と友人達。しかし、そこは食人族が住む恐ろしい地だったのだ…)

 (一言: 前半はやや退屈するが(平穏すぎる)、事件が起こると最後まで残酷の嵐。意外な展開が豊富。ムザンに殺される上、食われるという凄さ。食人族の数もかなり多いので、読んでいるだけで絶望的な気持ちに。敵に追われて逃げるのではなく、一軒家に立てこもる「守り」の展開というのもなかなかにスリリング)

 注意: ホラー慣れしていない方は、読まない方がいいです。気持ち悪くなります。

●いきさつ

 以前、ジャック・ケッチャムの「隣の家の少女」を読んだんですが、これがまたかなり残酷な話でした。
 幼女虐待の話なんですが、とにかくやりすぎ。主人公の少年は、隣の家の少女が、少女の家の者によって傷つけられていく様を見ている事しかできない……。淡い恋心は、ムザンに引き裂かれていくばかり……。
 これが近年、まさかの映画化。原作がムゴすぎなので、だいぶ描けない部分もあったんじゃないかなぁと思ったり。物語の性質上、かなり痛々しい映画であるのは想像に難くありません……。

 そのケッチャム氏のデビュー作であるという「オフシーズン」。
 「食人族」の話だそうで。アマゾンで検索してみたところ、高評価だったので、読んでみる事にしました。

●あらすじ

 雑誌編集者のカーラ田舎の一軒家を買った。そこは一番近い隣家でも、3キロは離れているという寂しい土地だが、近くに海があり、そこは季節がめぐれば大勢の観光客でにぎわう所なのだった。

 カーラは都会から遊びに来る妹マージーと、その友人達を迎える準備をしていた。家の掃除、食事の支度。
 カーラの妹マージー。その恋人ダン。友人のニック。その恋人ローラ。そしてカーラの恋人ジム。こちらに遊びに来るのは、その5人だ。
 この田舎の大きな一軒家で、彼らと楽しい1週間を過ごす予定だ。

 ……カーラを含め、彼らは知るハズもなかった。この田舎町で起きている、数々の失踪(しっそう)事件の事を。そして危険な集団が、ひと目をしのんで生活している事などを。
 カーラは、彼らに存在を知られた。その一軒家は長い間空き家だったのだが、そこは彼らのお気に入りの遊び場でもあったのだ。

 マージー達が到着し、家の中は賑やかになる。
 その晩。その一軒家を集団が取り囲んだ。
 彼らは、人間を殺して食う、食人族であったのだった……。

●感想

 作者の友人が添えた「序文」は、絶対に、先に読まない方がいいです。信じられない事に、ラストのネタバレを書いてしまっていますし。最悪です。

 主人公のカーラという女性に、大して好感が持てない、という不思議さ。
 昔の男に友情を求め、今のハンサムな彼にはセックスだけを求める、という女性だそうで。……彼女に、どうやって好感を持てばいいのかわかりません。
 ここまで魅力的に書かない主人公、というのもめずらしいな、と思いました。
 でもそれは、作者のワナだったんでしょうか……? 意外な展開が待ち受けます。

 はじめから、物語は2重形式で進行します。カーラ達と、警察側。
 カーラは、友人達を一軒家に迎え、そしてその晩、食人族に襲われる。殺し合い。スプラッターの嵐です。
 警察側は、別の事件を捜査している。ある女性が海の岩場で重傷を負って発見されたのだ。彼女の意識が戻り、警察は付近のパトロールが必要だと判断するが、食人族の事はまだ知らない……。

 ●

 冒頭はやや平穏すぎて「つまらない」とさえ思えてしまう。何と言っても、登場人物達にあまり好感が持てないまま進んでいくので、話を追っていくしかない。でも危険な事が起こる予感を、いくつもちりばめています。
 そうそう。途中で「ジム」という男が2人登場し、まぎらわしかったです。せっかくのスリルが帳消しに。

 でもコトが始まってからのスゴさはもう……圧倒的。
 家の中で守りを固めながら、食人族と戦うハメになるんですが、かなりスリリングに描かれています。

 展開も見事。全く甘くないところが素晴らしい。
 後半は特に、読んでいて何度も気持ち悪くなりました。早めに死んだ人間の方が幸せに思えるほど。さんざん恐ろしい思いをして、なおムザンに殺されるのでは浮かばれません……。

 ●

 この小説、いかにもB級ホラーっぽいものを描いているんですが……、全くそうは思わせないほど、文章がスゴイ。
 僕の偏見なんですが、外国人作家はリアリティを追及したいのか、日常の細かな部分の描写が圧倒的なんですね。……悪く言えば、ムダに書きすぎなんですが、やはりそういう濃厚さがあってこそ、作品に厚みをもたせられるんだろうな、と思ったり。
 あと、日常の中にフツーに暴力が混じっている、というのも外国小説ならでは、なのかなぁと。危険なヤツに声をかけられたり、誰かが銃を隠し持っていたり。

 ただ怖いだけではなく、ストーリー展開も見事すぎました。
 どんどん恐ろしい事になってしまうのがいいし、誰か生き残れるのかどうか、最後までわからないのもいい。
 意外な人物が勇敢に戦うのも面白い。

 とにかく、怖さも面白さも圧倒的な作品でした。話もさほど複雑じゃないので、身を入れて読めるのも良かったです。


ナイトワールド・サイクル ―― F・ポール・ウィルスン

 ホラー度:★★★★
 面白さ :★★★★★★

 (一言: 古城での吸血鬼伝説から話は始まり、悪を倒すために生まれた孤高の戦士グレーケン、<始末屋>のジャック、誠実な医師のアラン。彼らは導かれるように集い、究極の悪に挑む……。リアルに描かれた、魅力あふれる登場人物達。個々の作品の面白さは、もはや奇跡的。全11冊に及ぶ壮大なサーガがここに)

●ナイトワールド・サイクルとは?

 F(フランシス)・ポール・ウィルスンの長編小説6作を、壮大な1つの物語としてくくったもの。
 「ザ・キープ」「マンハッタンの戦慄」「タッチ」「リボーン」「闇の報復」「ナイトワールド」の6作(「リボーン」以外は全て上・下巻)。
 それらは各々、単体でも楽しめる(特に最初の3作)んですが、続けて読めば面白さが倍増する仕組みになっています。

 古城での吸血鬼との死闘を描いた「ザ・キープ」が全ての始まりとなり、
 「マンハッタンの戦慄」で<始末屋>ジャックの物語が、「タッチ」で医師アランの物語が描かれています。

 で。僕が読了したのは前半の3作。今、4作目の「リボーン」を読み始めています。
 先の3作があまりにも面白すぎたので、期待は高まるばかりです。

 そして、重要なお知らせなんですが……、これら6作の中で、入手しにくいものが存在します。
 「タッチ」「闇の報復」。この2作は2010年3月現在、比較的入手しにくく、「闇の報復」にあたっては、僕もプレミア価格(定価の2倍)で買わざるを得ませんでした。

 ●

 これら一連の作品の何がいいのか、と言われれば、登場人物の「人間味が描けている」というところでしょうか。
 例を挙げれば、「マンハッタンの戦慄」での<始末屋>ジャック。彼の<始末屋>としての仕事はどんなものなのか。そして彼はどんな経緯で始末屋になったのか。殺し屋とは違う、彼独自の<始末屋>としてのプライド。そしてジャックの強さの内側に隠れている、弱さ。優しさ。
 そしてジャックと愛しあう事になる謎の美女、コラバティ。何かをもくろむ片腕のインド人、クサム。
 「マンハッタンの戦慄」ばかりでなく、どの作品もちょっと出の脇役にいたるまで、人物が非常に個性豊かに描かれています。魅力的で、しかもリアルです。子供からおばあさん連中にいたるまで、本当にこんな人がいそうだ、という気にさせられます。……だから、作品にのめり込めたんですね。ウソっぽさがないから。

 今まで、僕が外国作家で好んで読んできたのは、ほとんど「スティーヴン・キングのみ」だったのですが(とりつかれたように、大型本も買いそろえて読みました)、ここに来てF・ポール・ウィルスンにかなり惹かれてしまいました。
 主役級の人間がかなり誠実に描かれているんですが、それが全く嫌味にならない。正義感のある人間ってこんなに魅力的なのか、と改めて考えさせられました。

 なお、F・ポール・ウィルスンは「医者」をしながら、作家活動を続けているとの事。ここにも驚かされます。

●ナイトワールド・サイクルの前半を軽く紹介

 ●「ザ・キープ」(上・下)

 ルーマニアの山中にある古城。そこに居座るドイツ軍隊は、何物かにおびえていた。この城には、何かがいる!
 なすすべなく繰り返されて行く殺戮。その城を離れる事は許されず、隊長のヴォーマンは上層部にかけあう。そうしてナチスのSSの少佐ケンプファーが髑髏(どくろ)部隊を連れて、問題を解決しに来る。
 しかし、ケンプファーにも事態の沈静はできなかった。
 むごいありさまで殺されていく兵士達。この古城にいるものは……人間ではないのか?

 >素直に見れば「吸血鬼もの」。ヴォーマン、ケンプファーのみならず、細かな脇役までが人間味あふれて描かれており、夢中になって読みました。
 見た事もない、ルーマニアの山中の「古城」が舞台であるのも魅力的でした。重苦しく謎めいた城内部。反して美しい眺めの城周辺の様子が目に浮かぶようでした。

 前半は殺戮劇が続き、後半はケンプファーらに捕らわれたユダヤ人親子が、城に住む何物かとコンタクトをとり、やがては……。
 非常に面白い一作でした。(なお、映画化されたようなのですが、出来はよくなかったとか)

 ●「マンハッタンの戦慄」(上・下)

 「ザ・キープ」とは全く接点のない作品。
 <始末屋>として孤独に生きるジャックは片腕のないインド人、クサムに「ネックレスを取り戻してほしい」と依頼される。  
 それは傍目には価値のない、「鉄のネックレス」なのだという。だがネックレスを奪われた老婆は、そのせいで命が危険にさらされているらしい。
 クサムは「明日の朝までに取り戻してほしい」と無理難題を押し付けてくるが、ジャックは持ち前の人の良さから、つい引き受けてしまう。だが仕事が成功するかどうかはまた別の話だ。
 その依頼が、その先に起こる事に巻き込まれる引き金になるなどとは、その時のジャックにはわかるハズもなかった。

 >ジャックは殺し屋、というワケじゃないんですね。冷酷じゃなく、小さな子供にはおどけて見せる善良な男。
 ジャックはジーアという女に心からホレていた。だがジーアはジャックの仕事が殺し屋か何かだと恐れ、離れていったのだ……。
 とにかく、「ジャック」というキャラにホレますね。この<始末屋>ジャックはシリーズ化もされていて、「ナイトワールド・サイクル」とは違った方向で話が膨らんでいる模様。
 そして後半になると、とある人物の陰謀とジャックは対面し、戦わなければならなくなります。

 ……そうそう。この本の原題は「THE TOMB(墓)」なのですが、今では墓と化している寺院で起きた一連の出来事が……とにかく怖い。ジャックとは関係のない過去話になるんですが、読み応えは充分にあります。

 「ザ・キープ」も面白かったのに、「マンハッタンの戦慄」はそれと同様か、それ以上に面白かった。
 そして僕はどっぷりとハマっていくワケであります……。

 ●「タッチ」(上・下)

 上の2作とは全く接点のない作品。
 誠実な医師アランは、ある日、薄汚れた浮浪者のような男に触られた時から、不思議な力が使えるようになった。
 患者を、触っただけで治療できるようになってしまったのだ。
 だがいつでも使えるワケではなく、アランはその奇跡の力を独自に分析していく。やがて「力の時間」が12時間サイクルで1時間だけやって来ることをつきとめる。
 そんな心霊治療じみたものに難色を示す、周囲の医師連中。アランの医師生命すら、おびやかされていく。しかしアランは、この力をもっと多くの人のために役立てたいと願う。何せ、触れただけでどんな難病でも立ちどころに治せてしまうのだから!

 しかしアランがその力を使って行く度に、周囲からは医師として認められなくなっていく。やがて妻にも去られてしまう。
 そして、その奇跡の力を使う度に、実は恐るべき反動がアランの身にふりかかっていたのだった……。

 >未亡人シルヴィアとの甘い恋?が作品の水面下で描かれているのですが、そのシルヴィアがまた魅力的で。
 誠実なアランの人柄にも惹かれます。「奇跡の治療」という、いかにもウソっぽくなりそうな題材にして、これだけ面白くリアルな作品を描けるという事もまた、奇跡的に感じました。

 友人、ライバル、美しい未亡人、そして誰にも心を開かない少年……。そんな人物の配置が絶妙であったからこそ、はじめから終わりまでダレる事なく読めたんだろうなぁと思いました。ラストの盛り上がり方も圧巻。ほんと、のめり込みました。
 奇跡の力を医学的に検証していこうとするのも面白いですね。作者が医者だからこそ、事細かに書けたんでしょうね。



↑タイトルの文字が金色のため
スキャンできなかった模様
 狂鬼降臨 ―― 友成純一
 (定価1500円:出版芸術社:平成21年2月初版)
 (情報提供: 浅漬けさん)

 ホラー度:★★★★★★(文句なし。最高級のグロさに感服)
 面白さ :★★★★

 (一言: 血肉にまみれた異常な世界を堪能できる、中短編集。エロを突き抜けたグロの描写が圧巻。血肉内臓、糞描写も何のその。内臓性器も溶けまくり、これ以上のグロはないんじゃないか、と思わせるほど。メインの「狂鬼降臨」は、突然現世に現れた無数の地獄の鬼どもが、人間をあらゆる方法で虐殺しまくる話)


●いきさつ

 ウチの掲示板で、浅漬けさんから紹介していただきました。ありがとうございます。

 はじめまして  投稿者:浅漬け  投稿日:2009年06月09日

 夢鳥様、はじめまして。
 ホラー物のレビューを見て行く内に此方に辿り着かせて頂きました。
 フリーゲーム等は未プレイが多かったのですが、映画や漫画は結構自分も見ていたのが多く、ツボをついたレビューはとても良かったです。

 書き込みの記念に自分もお薦めのホラーを一つ紹介させて頂いても宜しいでしょうか?
 それは「友成純一」さんと言う作家さんです。
 古い人なのでご存知かもしれませんが、この方の書く狂気が日常化した世界はもう凄いとしか言えません。
 極端なまでの感情を排した文章には個人的には吐き気を感じるほどの生々しさがあります。
 そんな氏の小説の中で、あえて一つお薦めを挙げるなら、「狂鬼降臨」でしょうか?
 これは氏の代表作の一つですが、最近復刻され読みやすくなっています。自分の住んでいる所では図書館においてありました。
 未見でしたら是非。(後略)

 ……との事。通販のアマゾンで「狂鬼降臨」を取り寄せて、読んでみました。
 しかし、レビューが大変遅れてしまってすみません(現在09年11月)……。

●「狂鬼降臨」

 短編集の形をとりながら、話は進んでいきます。
 一応、話の中心となるのは人間。でも彼らが助かる事はない。地獄からやって来た鬼達に、ムザンに殺されていくだけ。

 話としてはとにかく、鬼が人間達をムザンに殺しまくり、女を犯しまくる。鬼ばかりでなく、その家畜以下と化した人間達も世間体や正気をなくして、互いの血肉をむさぼったり、女を多人数で犯しまくったり。
 そこは現実でありながら、もはや地獄と化している。
 そういった描写を、一切の躊躇(ちゅうちょ)なく、余すところなく隠すところなく、事細かに長々と、描かれています。

 「世の中に、地獄の鬼が突如出現した」というリアリティも何もないあっけない出だしから始まり、殺戮と陵辱(りょうじょく)の嵐の後、投げ出されるようにあっけなく物語は終わっていく(短編の幕が閉じられる)。大したオチもないまま。

 エロ描写もあるんですが、そちらにはほとんど集中できない。皆、正気をなくした状態だし、清潔感がなくて汚らしい。
 そしてエロを突き抜けてグロシーンに突入してしまうので、エロは期待しない方が無難。ほんとグロのみ、です。

 直接的すぎる異様なホラー作品。
 なかなか圧倒されてしまいます。こんなのばかり読んでいたら、どうにかなってしまいそう。

 人間はとにかくただの血肉の塊であり、非力。なすすべなく、地獄の鬼達に殺されていくだけ。
 抵抗してもムダ。鬼を殺す事なんてできない。

 それにしても、「鬼が人間達を殺戮する」というだけの話なのに、よくこれだけ物語のバリエーションを描けるものだなぁと感心してしまいました。確実に、物語一つひとつに違った色がある。
 まずは舞台設定が重要なのかなぁと。それを大きく変えただけで、中身は大して変わらない(鬼が人間を殺すだけ)のに、違った話ができてしまう模様。勉強になります。

 ●

 鬼が人間の女を犯す場面は、一見すると何だか安っぽいエロアニメのようでした。
 でも、そこは氏としても避けて通れない道だったのかもしれません。避けたら、それはそれでリアリティがなく、生真面目に殺戮するだけの物語になってしまいそうだし。

 なお個人的には、鬼のイチモツから溶解液が出て、女を犯しながらぐずぐずに溶かしていく、というのがどうにもマンガ的すぎるなぁと思いました。「溶解液」はちょっとなぁ、と。だったら、犯した後に普通に(?)食ったり殺した方がまだそれっぽいかな、と。
 でもその辺も、氏の持ち味なのかもしれません。リアリティはともかく、溶かす描写は確かにエグいですし。

 で。よくぞ、エロでなくグロに比重を置いてくれたものだと賞賛したいです。
 これがもしエロに徹したら、この作品そのもののパワーを、かなり失ってしまうような気がするんです。
 エロを突き抜けていくからこそ、この「狂鬼降臨」は凄味がある。素晴らしいです。

 で。どの短編にもオチがない……、と思っていましたが、実はそうじゃなかったようで。
 なんとネタバレ: 「狂鬼降臨」の最後の話が、今までの短編のオチを、まとめてつなげてあるんですねー。これは面白い発想です。感心しました。
 オチがからまり、なかなかの相乗効果をあげています。盛り上がります。

 でも、あの終わり方はどうかなぁと。何故、ただ一人の女の怨念があんなに強大な力を持ったのか、ちょっとピンと来ませんし……。まぁ雪だるま式、と言えばそうなのかもしれませんが。
 この物語、キッチリと終わらなくても良かったような気もします。

 で。この「狂鬼降臨」で本の半分を読みきった模様。

●「地獄の遊園地」その他

 娘の咲子を連れ、家族で「フリーヘブン」という遊園地に来た一義。
 突然始まる、アトラクションの機械達による大量虐殺。一体何が起こったのか……?

 小説というより、マンガ。機械達が人間を襲う、という時点でリアリティもかなり低め(殺す描写以外は)。
 でも、楽しいハズの遊園地で虐殺(ぎゃくさつ)が起こる、というそのキバツな雰囲気はなかなか楽しいです。こちらにはエロはなく、生真面目に殺戮劇が繰り広げられていく、というだけなんですが。
 個人的には、マンガ描写が多くて、ちょっとノレなかったですね。アトラクションのワニが人間を食い殺すとか、マザーコンピューターが遊園地を狂わせたとか、大量のICチップが飛んできて身体じゅうにめり込むとか。……そりゃないだろう、と。

 他、「呪縛女」「蟷螂(かまきり)の罠」「地獄の釜開き」と短編が続きますが、まだ読んでいないので、読んだら感想を追記しようかと思います。

●総評

 エログロ満載。というか、グロのみという感じです。
 エロ描写を突き抜けてのグロ。なかなか圧巻でした。これがエロで終着してしまったら、この作品は非凡にはなれなかったと思います。化け物に 女が犯されるというだけの話なら、どこにでもありますから。
 エロを突き抜けてくれたからこそ、凄味があり、圧倒されたのです。

 そしてグロ描写が全体の8割方を占めるのもいさぎよい。ムダも少なく、グロのみの世界を存分に堪能できるかと思います。
 ストーリーもある事はあるんですが、「色々な角度でグロの背景描写を楽しむ」という程度のものかなぁと。

 とにかく血肉や内臓まみれで、腐肉腐汁の飛び散る狂気の世界がここにあります。
 こういう世界もまた、ホラーには不可欠かと思います。でもある程度、ホラーに耐性がないと読むのがツライでしょうね。

 本の巻末にある、友成氏の出版リストを見ると、かなりの数の本を出されている模様。1985年「肉の儀式」に始まり、総数71冊。その他、古い本は他社で再販されたりもしているようです。
 氏の「あとがき」も大変面白い。「狂鬼降臨」が手書き(つまり原稿用紙に直接書く)で書かれたものだったとか、でも作品によってはワープロも使うとか。でも手書きの方が一字一句を吟味するので、気合もこもるとの事。個人的に、手書きはマネできませんね…。

 とにかく、今まで味わった事のない異常な世界を味わう事ができました。ここまでグロが容赦なく描かれたホラーがあったんだなぁと。まだまだ勉強不足ですね。
 浅漬けさん。この本を紹介していただき、真にありがとうございました。


 トンコ ―― 雀野(すずめの)日名子
 (角川ホラー文庫)

 ホラー度:★★★★(「黙契」が秀でている)
 面白さ :★★★★

 (一言: 2008年度角川ホラー大賞短編賞を受賞した「トンコ」他、「ぞんび団地」「黙契」が収められた作品集。「トンコ」「ぞんび団地」は全体的にほのぼののんびりしていて、まるで絵本のような作品なんですが…、兄と自殺した妹のつながりを描いた「黙契」には、完全に打ちのめされました)

●いきさつ

 角川ホラー文庫。書店で何か怖い本を探す時、この棚は外せません。ホラーの宝庫ですから。
 そこでたまたま平積みで置かれていた、「トンコ」を手にしてみました。すると、これは2008年度の角川ホラー大賞、短編賞を受賞した作品との事。……迷わず、読んでみる事にしました。

●感想など

 この本には、「トンコ」「ぞんび団地」「黙契」の3作品が収められています。
 まずは角川ホラー大賞、短編賞受賞作の「トンコ」から。

 高速道路でトラックが横転し、積んでいた大量の豚(ブタ)が逃げ出すシーンから始まります。他の車と衝突して、豚が何頭も跳ね飛ばされては死んでいく。運搬業者の二人はその辺を駆けずり回る。
 そんな惨事(さんじ)を、道路脇の草むらの陰でじっと見つめている一匹の豚がいた。生後6ヶ月のメス。背中には「063F11」と書かれている。
 彼女が物語の主人公、「トンコ」である。

 この物語は、このトンコの視点で進んでいきます。
 ……ぼととん、ぼひ。などという擬音を交えて、放屁や糞(ふん)をする描写なども多い。豚ごとに性格づけをしているのも面白い。なるほどなぁと納得。
 途中、チワワが出て来る辺りなどは、わざとらしい人間(作り物っぽい)が出て来たりして、いかにも娯楽映画のノリっぽかったんですが。

 トラックの事故現場から脱走したトンコは、ひたすら周囲をさまよい、時には繁華街にまで行き着いてしまったりする。トンコは時折感じる仲間の面影を追い求めて行くのですが、一向に仲間の元にはたどり着けない……。
 トンコはどうなるのか。どこへ行くのか……。


 で。率直な感想としては「どこが怖いのか全くわからない」。
 どうしてこれが、角川ホラー大賞短編賞を受賞したのか、僕には理解できませんでした。

 怖さをストレートに描くのではなく、変化球で「何となく怖さを感じてしまう」作品の方が審査員へのウケがいいのか、と勘ぐってしまいたくなるほど、この作品は恐怖というものを表には描いていない。
 肉として食われるだけの豚にも、こんな世界があるのだ! それを食うお前達は残酷なのだ、とでも言いたいのかなぁ……、と。

 逃げ出した食用豚がかいま見る人間の世界。
 名づけて「トンコの大脱走」「トンコの冒険」などとして、幼児向け絵本にでもなりそうな内容。……と言うと、悪評やひがみに聞こえるかもしれませんが、これは一読してもらえば何となくわかってもらえるんじゃないかな、と思います。ホントにそんな感じの話なので。

 でも、全く面白くないワケじゃない。妙に惹かれるのも事実。
 何で脱走した豚の話がここまで面白く読めるんだろう?と不思議になってしまいます。

 で、この話の中で「この辺がホラーなのかな?」と思うところは、繁華街で仲間の豚のなれの果てを、トンコが目のあたりにするところでしょうか。豚視点なのに、話が妙にリアルだったりするので、その辺も笑えずに真顔で読み入ってしまいました。
 まぁ街中を豚が遁走(とんそう)する時点で、話としては完全にギャグの域だとは思いますが……。

 やっぱりホラーじゃないですね、これは……。映像化したら、お笑い娯楽作になってしまいそうな気が……。

 ●

 次の「ぞんび団地」。
 主人公はあっちゃんという小さな女の子。あっちゃんは、パパとママに優しくしてもらえない。また仲良くしてほしくて、パパとママをぞんびにしようとします。
 ぞんびが住む団地では、みんな仲良しだから、ぞんびになればパパとママもきっと優しくしてくれると思ってるんですね。

 自分がぞんびになって、パパとママをかじろう、と思うのですが、他のぞんびの人達は、あっちゃんをかじってはくれない。それでもあっちゃんは、あの手この手でぞんびになろうとするのですが……。

 リアルなのかリアルじゃない(ぞんび、迷彩服の者達)のか、よくわからない感じで進んでいきます。
 「トンコ」よりリアルさはない(わざとそういう世界を描いた?)んですが、トンコよりはホラー描写が多いですね。
 でもこれも絵本みたいな話かなぁ……と。

 これはこれで、面白い話なんですけどね。ホラーとしてもなかなか。前半の不可思議な(やや幼児めいた)世界を引きずっていながら、よくぞ後半でここまで盛り上げてくれたと感心です。

 ●

 「黙契」。このタイトルでは内容を想像しようもないんですが……、この本の中で一番気に入った作品です。
 文体がこの作品では別人のよう。この作者の幅の広さ、というものを見せられた気がします。(この作者は以前に、映画「シャッター」などのノベライズも手がけたとの事。元々、プロに近い人だったんですね)

 デザイナーを夢見て上京した妹が、首を吊って自殺した。兄の良樹は、その自殺の真相を探って行く……という話なんですが、物悲しいですね。
 この作品の凄いところは、「人が死んで終わり、ではない」というところですね。死んでなお物語が続いていく。これには驚きました。こういう描き方があるんだなぁ、と。
 新しい世界を見せられた気すらします。しかもホラー的にかなり魅力的な描き方をしているので、感心させられましたね。想像してみただけで、怖い。妹のシーン全般なんですけどね。

 この話に1つ難を言えば、「妹が自殺する理由がちょっと弱い」んじゃないか、と。
 あの実直な兄を心底慕っていた妹なら、どんな事があっても自殺はしないんじゃないかなぁ……と思うんですが。惜しい、と思うのはそこだけですね。もちろん、自殺しなかったら話自体が成立しないんですが。

 でも素直に泣けますね。ラストも、ムダな説明がないのがいい。あれで充分、伝わってきますし、話の切れ方は最高だと思います。

●総評

 「トンコ」「ぞんび団地」だけでは、僕はこの作者を好きにはなっていなかったと思います。子供向けの絵本のような作品でしたからね、この2作は。
 この2作だけだったら、多分、酷評で終わっていました。ホラー度の★も3つ程度で。

 「ぞんび団地」はそこそこホラーしていますが、リアルさが低くて、マンガのようなノリでしたから。文芸作品としてではなく、マンガ原作などであれば、その視点で「風変わりで面白い」と言えたかもしれませんが。
 角川ホラー文庫の小説としては、弱いと言わざるを得ない。コチラとしても、「一流作だ」と期待して読むんですから。

 でも、「黙契」にはかなりヤラレました。
 描写も充分怖かったですし、兄と妹が次第につながっていく描き方も良かった。首を吊った妹が、そこで終わりにならないのが最高に良かった。

 ラストも非常に満足のいくものでした。もし映像化したら、あまりにもムゴイ事になりそうですが……。


 鏡地獄 (江戸川乱歩怪奇幻想傑作選) ―― 江戸川乱歩
 (角川ホラー文庫)

 ホラー度:★★★★
 面白さ :★★★★★

 (一言: 乱歩の恐怖短編集。短、中編を8つ収録。ほとんどハズレなし。オススメは「人間椅子」「パノラマ島奇談」「陰獣」)

●いきさつ

 江戸川乱歩。名前だけはよく知っているのに、実際に乱歩の小説を読んだ事がなかったような気がしたので、読んでみました。
 ちなみに芥川(あくたがわ)龍之介も「青空文庫」(ネット上で、無料で小説を読めるサイト)でいくつか読んでみたんですが、こちらは文章が難しく(古文っぽい?)、面白さを感じる前にザセツ……。

●感想など

 この作品集の中には、「人間椅子」「鏡地獄」「人でなしの恋」「芋虫」「白昼夢」「踊る一寸法師」「パノラマ島奇談」「陰獣」が収められています。

 その中で僕が特に気に入ったのは、「パノラマ島奇談」。貧乏人の主人公が、とある大金持ちの男に顔や姿が似ているというのを悪用して、その男になりきってしまう。名画「太陽がいっぱい」のアラン・ドロンを思い出してしまいます。
 そして芸術家であった主人公は、自らの思惑を形にすべく、とある無人島を思うがままに改造してしまう、という話なんですが、とにかく、改造後のその島の描写が圧巻でした。物語としてもうまくまとまっていて、好きですね。個人的には、ラストシーンの情景が頭から離れません。
 この作品はマンガ化されているみたいなので、今度読んでみたいですね。

 次に好きなのが「陰獣」。何となくエロいのか?と思わせる題ですが、そうではありません。女の情念が描かれています。その正体もいい。魅力的な物語。ラストの物悲しさも心に残る。

 映画化もされた「人間椅子」も面白い。みにくい椅子職人が椅子の中に入り込んで、他人の感触を味わう、というアイディアがいいし、話としても気持ちよくダマされました。

 他、「鏡地獄」「芋虫」なども怪奇っぽくていい。個人的な話ですが、「鏡地獄」の描き方をマネて、いくつか短編を書いてしまいました。そのモノに執着(しゅうちゃく)し、狂って堕ちていくという描き方ですね。僕的な単純な解釈ではありますが。

●総評

 さすがは名高い、江戸川乱歩。ほとんどハズレなし、という感じでした。「怪奇幻想傑作選」という事なので、もちろん、載せる作品を選んだ編集者の腕、というのもあるでしょう。
 読み終わって、また読み直したい。いや、いつまでもそばに置いておきたい。そう思わせる一冊でした。


 夜市 ―― 恒川(つねかわ)光太郎
 (角川書店:文庫本もあり)

 ホラー度:★★★☆☆
 面白さ :★★★★

 (あらすじ: 大学生のいずみは、友人の裕司に誘われて「夜市」へと足を運んだ。岬の森の中で開かれていたそれは、化け物達が店を開く、化け物市場だった。そこから出るには、何かを買わないといけない。裕司には、目的の物があった。裕司はそのために、ここに来たのだ…)

 (一言: 幻想的な夜市。そこで設けられている数々の「制約」が活きて使われており、物語を非常に魅力的にしています。そこで語られるドラマも心地よい。怖さは弱めなんですが、物語としてはかなり面白い。衝撃的ではなく、面白さはじわりとくる)

●いきさつ

 角川書店が主催する、日本ホラー小説大賞。一体、どんな作品が一流のホラーとして認められているのか。非常に興味を持って、ちょっと調べてみました。
 その第12回で、大賞をとった作品。それが「夜市」でした。

 なお、審査員が大絶賛。あの荒俣 宏(あらまた ひろし)氏が「わたしはめずらしく泣いた」とし、高橋克彦氏が「しばし愕然となった。たとえ百人の物書きが居たとしても、後半のこんな展開は絶対に思い付かないだろう」と評しています。(本の帯、及び巻末の「選評」より)

 そして本の帯には「日本ホラー小説大賞、史上最高傑作」とある。……ホメすぎです。そそられまくりです。読むしかありません。
 失礼ながらアマゾンの中古で、たった1円で買ったんですけどね。費用はほとんど送料のみという……。

●あらすじ

 大学生のいずみは、友人の裕司のアパートへ遊びに行った。裕司の部屋へ行くのは初めての事だ。
 そこで裕司は「夜市へ行かないか」と誘ってくる。その夜市とは何だかよくわからないが、裕司の部屋で二人きりで夜を過ごすのも、気詰まりになりそうで考えものだ。いずみは誘いに乗ってみた。

 とある岬の森の中。それは開かれていた。
 だがそれは、化け物達が店を開く、化け物市場だったのだ……。

 売っている品物も怪しいものばかり。しかも値段に1億円だのと付けられては手も出ない。
 夜市を長々とさまよっている内に、何か買い物をしないとここからは出られない事に二人は身をもって、気づく。

 だが。裕司には最初からここに来た目的があった。
 裕司はとあるものを買い戻しに、ここへやって来たのだ……。

●感想など

 一回読んでも特に怖くも泣けるでもなく、またじっくりと読み直してみました。

 この作品を一言で言えば、ファンタジー。優美なファンタジー。そこには色々な「制約」が設けられてあって、物語をより面白くしています。
 制約というのは、夜市には三度しかいけないとか、買い物をしないとそこから出られないとか。

 で。正直に言って、「こんな空想だらけの作品でもホラー大賞がとれるのか」と驚きました。
 例えば、過去に同賞をとった「黒い家」などでは、作者自身の経験から「保険」の業務内容などが事細かに書かれてある。リアリティが物凄い。それなどと比べると、この「夜市」は本当にただの「おとぎ話」に見えてしまう……。

 確かに、よくできたおとぎ話だとは思います。制約があるからこそ、生きてくるドラマもあります。
 ……でも、怖くない。あるのは不安、という程度。
 この作品は確かに面白くて、胸にも残るんですが……、「日本ホラー小説大賞史上最高傑作」と銘打たれるまでのものか?と疑問になりました。あおりすぎなんじゃないかと。

 もちろん、それは僕の読解力が足りないから、そういう感想になったまでの事。複数の大作家が認める作品なので、間違いはないでしょう。

 ●

 とは言え、この作品そのものは面白いです。
 幻想的な夜市の魅力。明かされる裕司の目的。とある売り場の前でのいずみと裕司のやりとりもいいし、その果てに起こるアレもいい。
 その場面は驚きました。読んでいて、何が起こったのかわからない。それを後で、とくとくと説明されるワケなんですが。

 読めば読むほど、味が出てくる作品。あまりにもファンタジーが入りすぎている気もしますが、物語としての完成度というか煮詰め具合いはかなり素晴らしかったです。
 でも。残念ながら、怖くはないかなぁ……と。

 ●

 この本にはもう一作、「風の古道」という作品も収められています。
 それもまたファンタジーっぽくて。ここでもまた、古道というものに対して「制約」を設けていて、効果的に使われています。古道で生まれた者は、外へは出られないとか、古道の物は外へ持ち出せないとか。

 ちょっとしたアクシデントで死んでしまった友人を生き返らせるために、雨の寺という場所を求めて旅をする話なんですが、ずっと古道の中での話が描かれているため、フンイキは良かったです。鮮やかな緑の景色が目に浮かぶようでした。

 ファンタジー(創作劇)に、独自の制約を設けて、物語をより魅力的にする……。というのがこの作者の持ち味なのかなぁと思いました。

 火車(かしゃ) ―― 宮部みゆき
 (新潮文庫)

 ホラー度:★★☆☆☆
 面白さ :★★★★


 (あらすじ: 休職中の刑事、本間俊介の元に、遠縁の男である栗坂和也が人捜しを頼みに来た。彼の婚約者が失踪したのだという。女の名前は関根彰子。連絡も出来ず、足取りもつかめない。彼女が失踪した理由は、和也に自己破産の過去を知られたから、であるらしい。そんな彼女の捜索を続けている内に、彼女が実は関根彰子本人ではない事を知る…)

 (感想など: 全編ほとんど、捜索劇。失踪した女の知人達との会話が、物語の大半を占める。サスペンス的な派手さはほとんどない。でも物語全体に深いリアリティを感じます。カード地獄に陥る人々の素性などもリアルに描かれています)

●いきさつ

 映画化もされた「模倣犯」などで知られる作家、宮部みゆきさん。その代表作とも言える(ような気がする)、「火車」。
 近年においても、書店での人気も上々なようなので、手に取ってみました。ずっと気になってましたので。
 「火車」は1992年作品である様子。17年ほど前の作品なんですね。平成10年に文庫化され、順調に版を重ねているようです。

●感想

 借金を繰り返しては逃亡し、他人になりすましてはまた借金を重ね、そしてまた行方をくらます謎の女……。
 読む前からイメージ的に「火車」の内容はこんなものだと思っていました。でも読んでみると、大筋は合っていたものの、イメージとはだいぶ違っていました。

 まず、主人公が(休職中の)中年刑事。この視点がずっと続くんですね。
 肝心の逃亡中の女性は、なかなか出て来ない。いつ真相が明らかにされるんだろうと、引っ張られてひっぱられて……ネタバレ: まぁラストを迎えるワケなんですけどね

 全編、刑事が追ってばかりの物語。
 刑事視点で、主人公であるべき女性像が次第に見えてくるのはいいんですが、どうにも燃えるところがない。ずーっと捜しっぱなしの物語なので、派手さは皆無。人物描写が上手いから読めるのであって、これをシロウトが描いたらさぞつまんない話になりそう……な気すらします。

 ドラマ性がなく、意外なサスペンス性などもない。
 面白くないとは言いませんが、これは映画化などにはしにくい作品だなぁと思いました。おそらくこの作品をそのまま映画化したら、あんまり面白くない気がします。視覚的にずっと大人しいままなので。

 そういった僕が求める派手さはないものの、小説としての確かな読み応えはもちろんありました。
 要は、僕がマンガや映画にばかり感化されてきた人間なので、この「火車」にもそういった派手さを勝手に求めてしまった、という事。決して「火車」そのものが面白くなかったワケではありません。
 色々な人間が描かれていて、彼らの存在感もかなりなもの。そして失踪人の素性が、その知人達との会話を通して描かれていく、というのもなかなか面白い手法だと思います。
 ネタバレ: ラストも上手いなぁ、と感心です。こういう思わせぶりなラストは他の作品でも見かけたりしますが、「やられたなー」と思ったり。時には「何でここで終わるんだよ?」と怒りたくなったり…

 宮部みゆきさん、と言えばもう大作家ですから、さすがにリアリティのこもった濃厚な物語を描いてくれます。主人公の本間俊介(ほんましゅんすけ)を取り巻く家庭事情。関わる人物の面白さなど、しっかりしています。
 わずかづつ増えていく手がかりを元に、仕事でも依頼でもなく、いつしか自分の意思で謎の女性を捜し続ける本間。損得を超えて頑張り続けるその姿に、好感を覚えます。

 「火車」というタイトルが抜群にいいのと、「カード破産」を取り上げたのが人気の秘密かもしれません。これが17年前の作品だなんて、ちょっと信じられないくらいです。昔にもカード破産やサラ金ってあったんですね……。近年の事情とさほど変わらない感じで読めますね。
 あと文庫のカバー絵も素晴らしい。僕はまず、これに惹かれました。

 本も厚いので、読み応えも充分にあります。僕は1ヶ月くらいかけて、ちまちま読んだ記憶があります。
 ホラーじみた怖さはほとんどないのですが、全くないワケじゃないですね。全編じわじわと語られていくカード地獄の恐ろしさ。そしてラスト付近で語られる、借金を背負って逃げた父親を持つ娘の、とある強い願い……。

 なんだかんだで、やはり面白かった気がします。派手さはないんですけどね。

 そのケータイはXX(エクスクロス)で ―― 上甲宣之
 (宝島社文庫)

 ホラー度:★★★★
 面白さ :★★★★(ラストが今一つ燃えなかった)

 (あらすじ: 温泉旅行に、しよりと愛子がやってきた村は、不穏な空気のただよう村だった。宿の押入れで見つけた携帯電話。通話がかかってきている。「物部」と名乗った電話向こうの相手は、思いもかけない事を言ってきた。<…そこから逃げるんだ。脚を斬り落とされるぞ!>。物部の指示に従い、宿を抜け出る。しかし、温泉で一旦別れた愛子となかなか合流できなくなる。愛子は無事なのか? そして物部は本当に信用できる相手なのか。村に伝わるという恐ろしい風習は、事実のものなのか――)

 (感想: 読み始めると止まらない面白さ。でも肝心の「XX」の謎が腑に落ちませんでした。ラストの展開と物部の正体も、首をかしげてしまいました。他、愛子のアクションシーンがムダに長すぎたと思います。…でもそれらを差し引いても、なかなか面白怖くて、何度も「騙される展開」が気持ち良かったです)

 ●映画「エクスクロス」公式サイト: http://xx-movie.com/index.html

●いきさつ

 「映画化話題作!!」という事で、コンビニの書棚で見つけた本書。まず、タイトルに惹かれました。
 本に巻かれたでかでかとしたオビを見ると、なかなか面白そうな映画です。あの鈴木亜美さんも出ているんですね。

●感想 (軽いネタバレと批判を含みます。これから読もうと思っている方は、以下のレビューは絶対に読まない方がいいです)

 率直な感想としては、「ラスト付近までは、非常に面白かった」。
 微妙な言い方ですが、素直に大満足できたワケではなかったんですね、残念ながら。

 何故かと言うと、一番期待していた「XXとは何か?!」というものが、全然胸に来ないものだったからです。
 読みながら、一番楽しみにしていた謎だったんですが、どうも軽めに流されてしまった気がしました。しかも映画じゃタイトルそのものになってますからね〜、「エクスクロス」と。どういう風に納得させるのか、興味はあります。

 でも、基本的にこの小説はハラハラしながら読めたので、大変面白かった。後半までほんと一息に読んでしまいました。読む手が止まりませんでした。

 ●残念なオチ

 しかし、……ラストがどうも燃えなかった。物語そのものがずっとクライマックスみたいないい感じで来たのに、ラストで「ガツン」と来ないまま、終了してしまっているように見えました。
 面白くなかったわけじゃないのに……、どうも胸に残らないラスト。
 物部の意外な正体が、何だかギャグになってしまっていて、思いっきり拍子抜けしてしまった、というのはあります。それに加え、しよりの物部へのむごい仕打ち……。この2つと、しよりが結局「逃げる」というだけの展開に、イマイチ燃え尽きなかった感じがしました。

 ラストこそ、最大級の衝撃が欲しかったのに。オチでもって、心を揺さぶって欲しかった。
 だから、この物語のオチには「残念だった」と(個人的に)思いました。もっとずっといい、ラストの展開などがあったと思うんですけどね……。

 ●長すぎた愛子のアクションシーン

 あと、愛子のアクションシーンが長すぎた、という気がします。いきなり公衆トイレで恐ろしい災難に会うんですが、そのシーンの長いことながいこと……。しかも全然、村の災厄とは無関係のシーンですからね……。車での格闘シーンも、ムダにしつこい。加えて、敵が人間離れしている気がしました。

 ●騙される快感

 物語中、何度もなんども読者自身が騙されそうになるところがいいですね。読んでいて、本当に何が真実なのかわからなくなる。
 一番良かったのは、しよりが結核の隔離部屋で村人に説得されるところですね。ここをはじめとして、何度か似たような感じで読者を騙そうとしてますね。
 ネタバレ: 結局、村の恐ろしい風習はあったのかなかったのか? わからないまま終わるところは上手い、と思いました

 ●超・個人的意見

 ヒロイン二人がとっ捕まって、祭り上げられる寸前まで行って、絶体絶命!などという追い込みがあれば、ホラー度ももっと高まったでしょうし、二人が別々の場所に監禁されながらも、わずかなつながりとしてのケータイがあれば、XXの掛け合いにも熱がこもったんじゃないかなぁと思いました。
 あってもよさそうな緊迫シーン(ヒロインらがとっ捕まる)が無かった。だからラストがイヤに淡白に思えたんですね。個人的に。

 ラスト付近。ヒロイン達は絶対絶命なようで、絶体絶命じゃない。そこが個人的に「甘い」という気がしました。さらに、愛子がいる場所がイヤにストポジションなのも気にかかりました。軽く監禁されているのに、周囲の事が見えすぎている。都合よすぎです。

 まぁホラーというより、一般向け作品を描いた、という事なんでしょうけど。ホラー作品とするならば、もっと人がばんばんエグく死んでたでしょうし。
 いいホラー作品になりそうだったのに、作者さんはそこを避けた。それがホラーマニア?の僕には「惜しいな、もったいないな」という感想につながってしまったワケです。


 黒猫/ウィリアム・ウィルスン ―― エドガー・アラン・ポー

 ホラー度:★★★★

 (一言: 黒猫の奇怪な復讐を描いた「黒猫」。自分そっくりの男に翻弄され続ける男を描いた「ウィリアム・ウィルスン」。両方とも短編なので、数十分もあれば読めると思います。特に「黒猫」はしっかりホラーしています。素晴らしい)

●「青空文庫」 : http://www.aozora.gr.jp/index.html
(無料で過去の名作小説を読む事ができる、素晴らしいサイト)

 ※ポーエドガー・アランで分別されているので、作家別のメニュー「は行」から。
 「いますぐXHTML版で読む」のリンクをクリックすれば、その場で読めます。

●エドガー・アラン・ポー(1809−1849):アメリカ、ボストン市に生まれる。詩人。代表作に小説「アッシャー家の崩壊」、「モルグ街の殺人」、詩「大鴉」などがある。なお日本の作家「江戸川乱歩」の筆名は、彼の名をもじってつけられた。(「ウィキペディア」などより抜粋)

フリー百科事典「ウィキペディア」内「エドガー・アラン・ポー」頁

●いきさつなど

 手元にあった本を読んでみたのですが、「黒猫/ウィリアム・ウィルスン」の2編しか載っていなくて、しかも原文の英語の他、仏(フランス)訳まで載っているという。しかも定価2800円というとんでもないシロモノ。なぜ僕が過去にそんな本を買ったのか、真に不思議……。というか、一時期、ドッペルゲンガーに関連する本をネットで買いあさった事があったのですが、その時、ポーの「ウィリアム・ウィルスン」が引っかかったんでしょう。

 で、その本の仏訳はシャルル・ボードレールという有名な詩人が行っているようなんですが、実はそれこそがポーを世界的に有名にしたきっかけだとされているようです。ポーは生前、作家として名を馳せたワケではなかった。そして裕福でもなかった。幸福でもなかったのかもしれない。晩年は酒びたりで酒場で死んだ、という事ですので。
 「栄光なき天才たち」というマンガを思い出してしまいます。世に名を残した偉人でも、生前はほとんど認められなかった事が多々あるようですので……。ちなみに僕と同じ岩手県生まれの童話作家「宮沢賢治」も、生前に本を出版したのはただ1冊きりだったという話です。

●あらすじ及び感想

●「黒猫」
 幼い頃から動物好きで、温和な性格であった「私」。しかし大人になると、私は酒におぼれるようになった。いらだち、暴力的になる。ある時私は、飼い猫のちょっとしたそそうに腹を立て、その片目をナイフでえぐりとってしまった。
 それから猫は私を避けるようになる。私は自らのおろかさに反省はしたものの、ついにはその猫の首を吊り、殺してしまう。
 翌日。わが家は火事になった。全焼した焼け跡の中、一箇所だけ奇妙な焼け残りがあった。――その壁には、巨大な猫の姿が描かれていたのだ……。
 それから、私は猫を殺してしまった後悔の念からか、似たような黒猫を探し回った。そしてとある酒場で見つけたそれは、生前の黒猫と瓜二つの猫だった……。

 >感想
 今時の小説とは読む感覚が違います。ポーだからこそ、なのかもしれませんが、やや難解。小説を表面的ではなく、主に内面的に描いている感じなんですね。要は詩的、なんでしょうか。何だか、あらすじを読んでいるような感じもします。細かな日常描写はほぼ皆無。

 で。ホラーの重要な要素として「負い目」というのがあると思うんですね。
 ただ単に見知らぬ幽霊が出てきても、それは一瞬の怖さでしかない。そうではなく、自分がその者に対し、なんらかの危害を加えてしまい、その者を(例えば)死に至らしめてしまった……。そうなると、その者が幽霊となって出てきた時、とても恐ろしく感じる。その者が死んだのは、「自分のせい」だと知っているから。その者が「自分を呪っている」のだとわかっているから……。

 この「黒猫」ではそんな感覚を味わえるんですね。自分はその黒猫を無残にも殺してしまった。猫に非がないのはわかっている。悪いのは自分なのだ。
 そして殺してしまった黒猫に生き写しの猫が現れてからも、「私」はおびえ続ける。おかしな現象に心が乱されていき、やがては破滅してしまう……。
 まさに「怪談の名作」。

●「ウィリアム・ウィルスン」
 学生時代の頃。学校で私と同姓同名の者がいた。私は周囲の中でも目立つ存在であり、彼は私のライバルのようなものであった。いや敵対する者だったのかもしれない。
 彼はその後もちらちらと姿を見せた。青年になった頃、私は酒や賭博におぼれていた。しかし、イカサマの賭博だ。カモを見つけては、その有り金を頂戴していた。
 そんなある時。私は一人の青年を、無残なまでに破滅させてしまった。彼はただ一夜の賭博で、その全財産を私に奪われたのだ。
 その時だ。颯爽(さっそう)と現れる者がいた。彼は……、私を常に悩ませ続けてきたウィリアム・ウィルスンその人だった。

 >感想
 情景描写が細かく、一言で言えば「読みにくい」。簡単な事を難しく細かく書いている、という感じ。でもそれは年代や地域性(外国)によるものなのかもしれませんし、僕が平易に読める書物ばかり好んで読んできたから、そう思うのかもしれません。
 この「ウィリアム・ウィルスン」は「ドッペルゲンガー」を描いた小説なんですね。ポー自身がそう思って書いたかどうかは不明ですが、現在ドッペルゲンガーに関連する書物を検索などしてみると、たやすく行き当たります。
 怖い、という感じは皆無なんですが、個人的に僕はドッペルゲンガーが好きなので、楽しく読めました。まさに「ドッペルゲンガーを題材にした古典的名作」という感じです。


 ゴルディアスの結び目 ―― 小松左京
 (角川ハルキ文庫)

 ホラー度:★★★★(表題作である「ゴルディアスの結び目」がオススメ)
 難易度 :★★★★★

 (一言: 4編が収められた短編集。「宇宙と生命」「人間の闇の果て」など、哲学思想や科学的な記述が多い。あまりにも難しすぎて理解不能だった短編もアリ。しかし、小説としての骨太さは圧巻)


※小松左京。1931年大阪市生まれ。「日本沈没」「首都消失」「復活の日」「エスパイ」などのSF小説を多数執筆。映画化された作品も多い。

●いきさつ

 ウチの掲示板にて蜃気楼博士さんから、小松左京さんのお話をいくつかいただきました。(2007年5〜6月頃)
 それで小松左京さんに興味を持ち、氏の数々の著作の中でも「怖そうな」ものを選んで読んでみました。

●感想

 小説というより、学術書を読んでいるようでした。非常に難解でした。
 ややもすれば「簡単な事を難しく書いている」と思えなくもないのですが……、しかしてこれが「小説の本分」なのかもしれない、と考えさせられたりもしました。小説でしか表現できない感覚(特に宇宙思想など)などもふんだんに盛り込まれているんですね。
 ストーリーばかりを追う小説とは一味も二味も違いました。

 ……ですが、かなり読み手を選ぶ小説なのではないか、という気もします。
 気軽に気楽に楽しむ、という感じではないし、よほどの活字好きじゃないと、せっかく読んでも理解不能な部分が多いと思います。
 僕もどのくらい理解できたのか、非常に怪しいです。

 ●「岬にて」
 私はその島で老後を迎えようとしている。数少ない仲間と、麻薬などを楽しみつつ、穏やかな時を過ごしている。
 そんな時、一人の青年が島にやって来た。彼は以前にもこの島へ来て、泊めてやった事がある。
 我々老人達の麻薬嗜好を毛嫌い、「宇宙的真理」に納得のいかない顔をする彼だが……。
 
 感想>
 老後の迎え方についてのところなどは、「自分も晩年を迎えたらこんな生き方をしてみたい」と思うほど、胸に響く内容でした。
 「宇宙の広さ」というものを説いていますね。呑まれてしまいました。いかに日常というものがちっぽけであるか。気づかされた気がします。……宗教色が強い、と思ってしまえば劇中の青年のように拒絶反応を起こしてしまいそうですが。
 おそらく「何度読んでも新しい発見がある小説」なのではないか、と思います。
 老後を迎えた時にまた読んでみると(え?)、かなり共感できるような気もします。

 それとは別にストーリー的にも面白かったです。ホント、映画を観ているようでした。

 ●「ゴルディアスの結び目」
 その極小の球体は、元は「部屋」だった。その球体は人知の力を遥かに超えており、しかもわずかながら収縮し続けているのだった。
 その部屋が収縮をはじめる前、中には、人間の男女がいた……。

 感想>
 精神を冒され、人知を超えた悪魔じみた現象を引き起こし続ける少女の心の中に入って、荒涼としたその世界を探っていくのが面白い。人の心や悪夢を視覚的に体験できる、といった感覚なんですね。
 恐ろしさ、汚さなどを超越し、人の心の奥底をさらにさらに突き進んでいく。その先にあるものは何なのか……? 詳しくは書きませんが、この短編はかなり気に入りました。ホラー度も高く、物語も「ホラーとして」かつ魅力的に、完結されています。
 何度も読みたくなる傑作。

 ●「すぺるむ・さぴえんすの冒険」
 悪魔か神か。自分に問いかけて来る者がいる。――全人類の命と引き換えに、宇宙の真理を教えようというものだった。
 それとの問答は目が覚めると忘れてしまった。しかし、それは私がその問いに拒絶か承諾の意を示すまで、繰り返し現れるのだった。

 感想>
 出だしと意外な展開が良かった。二重三重に仕掛けが施されてあって、楽しかったですね。
 「宇宙の真理を知る」という哲学的問答もかなり深いです。見た目として、本書の中で一番SFめいた作品かと。

 ●「あなろぐ・らう゛」
 私は娘を抱いている。二人で甘美な絶頂を迎える。しかし気付いた時には、私は娘の名を知らず、自分が誰であるのかも知らなかった。
 神か自分自身か。得体の知れないものとの問答は尽きない……。

 感想>
 途中から、何が書いてあるのかさっぱり理解できなくなり、読むのを断念しました。もはや小説ではなくなっていたような気がします。あまりにも難しすぎて、僕には評価不能。

●総評

 ホラーとしては、表題作である「ゴルディアスの結び目」がイチオシ。
 ひどく傷つきすぎて人ではなくなり、悪魔に変貌して(あるいは憑依されて)しまった少女の心の中を視覚的に表現しているのですが、何もかもを超越している描きっぷりに圧倒されました。要は、目を背けたくなるような汚いものまでも、ちゃんと描いているんですね。
 ……だからこそ、生々しい、迫力のある地獄を描けたんだろうと思います。もちろん、無理に汚くする必要はないんでしょうけど。

 そればかりでなく、「ゴルディアス〜」はストーリー小説としてもかなり面白いです。闇の果てがどうなっているのか。その辺にも妙なリアリティさがあり、説得力もあったと思います。かなり不思議な世界を見せてもらいました。
 一つ難点を言えば、少女が受けた仕打ちが、ちょっと俗っぽすぎた気がします。どこにでもあるような話だったので。(とかシロウトが言うなって…)

 「岬にて」も解釈次第で、いいホラーになりますね。ただ「宇宙」を相手にした哲学思想がかなり長いので、人によっては拒絶反応を起こすかもしれません。哲学というより宗教色を感じたりもしましたので。後半の文字による津波を思わせるシーンは圧巻でした。こんな描き方は初めて見た気がします。

 とにかく、一言で言えば「難解」でした。しかして、近年よく見る「ストーリーをなぞるだけの冒険活劇小説」にはない、深さを感じました。



 氷雨心中 ―― 乃南アサ
 (新潮文庫)
 (情報提供: まみさん 2006年5月)

 ホラー度:★★★★
 面白さ :★★★★★

 (一言: 短編6つ収録。線香職人、着物の染め直し職人、歯科技工士など、特殊な職業の世界が細やかに描かれている。どの話も甲乙つけ難いほどの秀作揃いで、本格ミステリーとしての気品高さのようなものも感じました)

●いきさつ

 ウチの掲示板で、まみさんから、乃南アサさんの「青い手」という短編のオススメを受けました。
 その短編がおさまっているのが、この「氷雨心中」という短編集なんですね。運よく、すぐに古本屋で入手できたので読んでみました。
 で、率直に言って、「さすが乃南アサさんの作品だ」と納得。以前紹介した「死んでも忘れない」を読んだ時と同等の感銘を受けました。
 短編集とて、全く手を抜いたところがなく、一編ごとに特殊な職業の世界が描かれていて、とにかく個性的。その世界の中で、どういうミステリーがあるのかと、最後まで予想できなかった作品ばかりでした。
 まみさん、紹介ありがとうございました。

●あらすじ紹介
 正直な感想として、全部の作品が素晴らしいので、特にマークなどの表記はしません。

 ●「青い手」
 幼い頃。拓也は母に連れられ、母の実家に移り住んだ。そこにいるのは優しい祖父と祖母だった。
 そこでは線香を作っていた。年を経るにつれ、自然と拓也もその仕事を手伝う事になっていった。
 普通の線香ばかりではなく、特殊な練り香である「薫霊香(くんれいこう)というものも作っていた。それはかなりの高値で取引される、自慢の高級品だった。
 拓也が家業を手伝うと、線香の原料で手が青く染まり、それを周囲にからかわれるのがイヤだった。

 ……と、書けば何がどう怖い話なのかわかりませんが、もちろんその後が怖いんですね。
 しかも、直接の怖い場面の描写は一切なし。読者に想像させて怖がらせるという、なかなか上質なホラーになっています。
 考えれば考えるほど怖い。

 ●「鈍(にび)色の春」
 塚原着物の染め直しを請け負っていた。
 53歳になろうという、有子というなじみの客がいるのだが、彼女は職人仲間でも話題にのぼるほどの変わり者だった。
 とにかく着物の染め直しの依頼が多く、染め直しの図案もまた風変わりだった。有子は恋をする心を保ち続け、その恋が芽生えるたびに、まるでその恋を題材にして絵を描くように、着物を染め直すのだった。
 そんなある日。有子はいつにない表情でまた、着物の染め直しを依頼してきた。
 何があったのか聞くと、有子は男にだまされたのだという。そして財産もプライドも全て奪われてしまい、その男を許せないのだという。
 どういう図柄に着物を染め直せばいいのか、有子自身がわからないらしい。塚原はそんな有子へ助言の意味もこめて、図案をまかせてもらう事にした。

 先の線香職人と同様、また全く知らない職人の世界が描かれています。しかも、以前その仕事をしていたのではないか、と思うほどに事細かに。このリアリティさがたまりません(?)。
 人物もまた、血肉が通っているかのように活き活きとしています。作り物とは思えない存在感を感じるんですね。……その辺に関しては、僕自身、まだまだ勉強させてもらえるところがありそうです。
 ちょっとだけわかったのは、乃南アサさんの観察眼でしょうか。人の描き方、描かれ方(主人公が他人を見る描写)が、想像では描ききれないところまで描いている、という気がするんですね。実際の人を見た感想、を読んでいる感覚に近い。だから、小説にリアリティを感じるんだと、僕なりに思っています。

 で、この「鈍色の春」なのですが、主人公が有子に伝えたかった本当の事が、僕はまだ理解できていません。有子はきっとかん違いしたんだと思うんですけどね。でも本当にかん違いなのか、やっぱりわかりません……。

 ●「氷雨心中」
 敬吾は地元を離れ、造り酒屋で半年間、出稼ぎに行く事になった。
 守川の爺さん、と呼ばれる地元の人間がその酒屋での杜氏(とうじ)をしていて、敬吾の世話をしてくれるという話だった。杜氏というのは、その蔵での酒の味を決める、親方である。
 敬吾は恋仲の朋美と半年間も遠く離れてしまう事がイヤだったが、そこで働き始めるにつれ、酒造りの仕事にやりがいを覚えるようになってきた。
 朋美は相変わらず電話口でさびしがる。その思いが、どんどんせっぱつまってくるのがわかる。
 だが敬吾はもう、酒造りに夢中になってしまっていた。そして正月を迎えたある日。朋美が着物姿で蔵に現れた。

 これはなかなかわかりやすいラストでした。酒造りに関しても丁寧に描かれていて、夢中になる敬吾の気持ちが何となく理解できました。

 ●「こころとかして」
 歯科技工士広樹は、今日も上司に余計な残務をもらって、夜遅くまで一人で技工所で働いていた。
 そして金歯の削りカスをくすねる。それも溶かせば立派な18金として役に立つのだ。
 広樹は、その金を使って、オリジナルのデザインをほどこした指輪を作るという夢があった。そして思いを込めて贈りたい人がいた……。
 駆け出しのジュエリーデザイナーである萌美も、広樹の夢を応援してくれていた。そして広樹は萌美が独立したら、自分も技工士をやめ、彼女について行こうと思っていた……。

 ラストへの展開はなかなかの見ものです。単なる恋愛ドラマにならないところがさすが。恋愛ドラマにならないからこそ、リアリティを感じました。
 でも指輪のオチは少し……。あれをそういう風に使う人っているんですか?と問いたくなります。ここだけは納得いかなかったです。まぁ確かに、「珍しい患者だ」と作中でも語ってはいますが……。うむ〜。

 ●「泥眼(でいがん)
 浅沼は、日本舞踊家の市邑緋絽枝(いちむら ひろえ)に頼まれて、「泥眼」の面を作っていた。
 しかし出来上がった面を見て、緋絽枝は良しとしない。その泥眼が悪いのではなく、自分が思い描いているものとは違う、という事だった。
 浅沼は作り直しを申し出た。引き下がれないと思ったからだ。こうなったら緋絽枝が納得のいく面を打ってやろうと、意気込むのだった。
 そして月日は流れ、浅沼は心血注いで泥眼を仕上げる。しかしまた、それも緋絽枝を納得させるものではなかった。

 ……これはですね、クライマックスが圧巻でした。舞踊など見た事もない僕ですが、読んでいるだけで薄ら寒くなるような、凄い迫力を感じました。
 僕個人では、この作品が一番怖かった。全然、ホラーという感じではないんですけどね。
 マンガの「ガラスの仮面」とか思い出しました。

 ●「おし津提灯(ちょうちん)
 提灯屋新平の家に、懐かしい友人が顔を見せた。
 それは二十年ぶりで見る、静恵だった。静恵は都会で暮らしていたのだが、地元に戻って店を開くのだと言う。早速、新平は提灯を贈らせてもらう事にした。
 8つほど年上で、今は40代前半になろうという静恵だったが、新平の眼にはとても魅力的に見えた。
 妻の久仁子にそんな気持ちを悟られないよう、今後も仲良くつきあっていくつもりだった。

 いざ静恵の店に行ってみると、なかなかの高級料亭で、昔のなじみの友人たちも「おいそれとは行かれやしないぞ」ともらした。
 だが静恵の方は気を張るつもりもないらしく、親しげに何度となく、新平の家に訪れる。そして久仁子に「ちょっと、新ちゃん借りていくわね」と言い、外に連れ出しての食事などを重ねるのだった。
 そして店の売上を順調に伸ばしていった静恵は、短期間で隣の店も買い取り、店の拡張を行った。
 「おし津」という屋号で新規開店する。その祝いにまた、新平は提灯を静恵の店に贈るのだった。

 ラストは、なるほど、と納得。形としてはオーソドックスな「(復讐)劇」といった感じでしょうか。いいですねぇ。終わり方もいかにもホラー的で、キレのよさも最高級。ムダがないからこそ、怖がれる。


 死んでも忘れない ―― 乃南(のなみ)アサ
 (新潮文庫)

 ホラー度:★★★★
 重苦しさ:★★★★★

 (一言: 幸せだった家庭を襲う崩壊。世間体がゆがんだ時、どんなに苦しく恐ろしい目にあうのか。主役3人ほか、物語のリアリティがすばらしい。ホラー作品ではないものの、そのホラー度はハンパではない)

●あらすじ

 城戸 絢子(きど あやこ)は三十路半ばで、初の妊娠(にんしん)を迎えていた。
 夫の(たかし)は41歳。中堅企業の広告宣伝部の課長を勤めている。真面目でいい夫だった。

 絢子は初婚だったが、崇にとっては再婚だった。
 崇の連れ子である(わたる)。中学生で、そろそろ高校受験を迎えようとしている。
 絢子はその渉とも、まるで姉弟のように仲良くやっていた。

 そんなある日。
 崇は電車内で痴漢(ちかん)に間違えられる。全く身に覚えがないのに、その女性に強く言い張られ、駅の乗務員室まで連れて行かれる。だがそれが間違いの始まりだった。

 女性は強気で、崇の事を責めてくる。崇も怒って反論するが、警察官が言うには、「被害者が言い張っている以上、強制わいせつで逮捕しなくてはならない」のだという……。
 いくら正論をぶつけようが、逃げ道はない。無実を主張し、強制的に逮捕されるか、罪を認めて、女性との示談に応じるか。その2つに1つしか、道はないらしい……。

 理不尽すぎる。しかし崇は仕方なく、話を示談の方向へもっていく事にした。逮捕されるとなると、事があまりにもおお事になる、と判断したのだ。その後送検され、十日間の拘留(こうりゅう)までされるのではたまらない。
 その女性には、慰謝料として50万円も請求されてしまった……。

 そんな話を、妻の絢子にも息子の渉にも言えないまま、日々は過ぎていく。
 だが意外な事が起こった。仕事の取引相手から「痴漢騒動」の話を聞かされたのだ。崇は青ざめるのと同時に憤慨(ふんがい)する。
 しかしそのウワサは、会社の課内にも知れ渡るところとなっていたのだ。
 事を重く見た崇は、上役に事態の真相を、先に伝える事にした。それで最悪の事態はまぬがれたかに見えた。
 だが。崇の痴漢騒動は、家の近辺にも知れ渡っていたのだ……。しかもウワサは捻じ曲がり、崇にとってひどく不名誉な形となっていた……。

 その後。妻と息子の周辺にも、被害は及んでいった……。
 各々が周囲からのけ者にされていき、家族の絆(きずな)もぼろぼろに崩れていってしまう。
 息子の渉に至っては、周囲からのいじめがひどくなっていき、完全に人間不信におちいってしまう。

 もはや、周囲の誤解をとりつくろう事はできそうにない。このまま3人は、崩壊の深みにはまっていくしかないのか……?

●感想

 古本屋で面白そうな(怖そうな)タイトルの本を選んで読んでみたのが、この「死んでも忘れない」。
 乃南アサさんの作品を読むのは、これが初めて(…と思ったら、以前紹介していた「七つの怖い扉」にもその名が)。数々の著作があり、プロとしてもベテランの方、みたいですね。しかも直木賞作家ですよ……すげえ。
 まぁホラー作家というワケではなく、主にサスペンスを手がけられているご様子なんですけどね。

 この本はホラーではなくサスペンスなのか?
 読み終えた感想としては、どちらでもなかったんですが。でも物語半ばはかなりホラー。読んでいる最中は非常に重苦しく、ウツな気分になってしまうほどでした。(精神的には良くない?)

 読んで一番感じたのは、その「リアリティ」さ。まるで作り物である気がしないんですね。
 主人公らがあたかも実在しているかのような描きっぷり。小説を読んで、これだけリアリティを感じたのは、かなりまれですね。 
 そんなリアリティさの中で、物語がひどく崩壊していくんですから……本当にウツになってしまいます。


 ホラーを冠さないこの作品ですが、その辺にあふれているホラー小説よりも、数倍恐ろしかったと思います。
 何が恐ろしいのか、と言えば、城戸家が周囲から完全に孤立していく様が怖いんですね。
 夫の崇は課内からも白い目で見られるようになり、妊娠という悦びを迎えたハズの絢子も、近隣の主婦からいい笑い者にされている。絢子は次第にヒステリックになっていき、終いには赤ちゃんの生命に関わる、妊娠中毒症とまで診断されてしまう……。

 そして息子の渉も、さらに輪をかけてひどい窮地(きゅうち)に立たされる。
 「痴漢の息子」「犯罪者の息子」というレッテルを貼られ、クラス中からのけ者にされ、いじめられる。いじめはどんどんエスカレートしていき、何度も自殺を考える。

 元々は幸せな家族だった3人が、たった一つの誤解によって、ひどく苦しめられていく。
 3人の絆もあっさりと打ち砕かれ、互いに拒絶しあう日々が続いていく……。

 さて。この作品のラストには何が待ち受けているのか。
 それはぜひ、読んで体験していただきたいと思います。色々言いたいけど、言いません。
 色々な方向性があったと思われる中、乃南アサさんはどう描ききったのか。注目です。


 ちなみに、似たような誤解のチカン話が、「ミナミの帝王」(マンガ)にもありますね。「となりの恐怖編」。
 結構かぶる部分もありますが、違った方向性ですので、それぞれ別モノとして楽しめますね。(「ミナミの帝王」では、チカンに間違われた男があくまでも示談に応じず、裁判で戦っていきます)


 8.1 ハチテンイチ ―― 山田悠介
 (文芸社)

 ホラー度:★★★☆☆
 面白さ :★★☆☆☆

 (一言: ホラー作家、山田悠介氏の短編集。怖さも面白さもそこそこ。ツッコミどころが多かった

●読んだきっかけ

 以前、このコーナーで「親指さがし」というマンガの紹介をしました。今回はその原作者である山田悠介氏の、小説を読んでみました。
 それというのも、ウチの掲示板で、山田悠介氏の話が多少の盛り上がり?を見せたのが始まりです。

 僕は以前、氏の作品である「@ベイビーメール」を読み、率直に「あんまり面白くなかった」という感想を得ました。
 でも山田悠介氏は他にも数々の著作があるようで、それなら今一度、山田氏の作品に触れてみよう、と思った僕は、オススメ本を聞いてみました。
 そして実里さんから教えていただいたオススメ本が、この「8.1」でした。

●感想

 「8.1」「写真メール」「黄泉の階段」「ジェットコースター」の4編を楽しめます。1本1時間以内で読みきれる感じですね。
 では、順を追って簡単な紹介と感想を書きたいと思います。

●「8.1」
 バケトン(化け物トンネル)サイトで出会った若者4人。彼らは各地のバケトンを真夜中に訪れるのを趣味としていた。
 黒田はリーダーとしてバケトンの情報収集を行ってきたが、今まで本当に怖いバケトンには出会えなかった。
 だがしかし、今回は当たりだと思った。それは「捨て子トンネル」と呼ばれるいわくつきのトンネルで、今までにはない、何かを感じさせるものだった。
 そして4人は今夜も嬉々として出かける。……しかし、そこは笑い事では済まないほどの、怨念のこもったバケトンだったのだ……。


 読んで途中まで、「小説」というより「恐怖体験談」を読んでいるようでした。これはホメ言葉ではありません。小説になっていない、と思ったのです。
 主人公らに多少の血肉を通わせたところで、「普通にバケトンを見に行き、普通に恐怖体験をする」。……これではあまりにも安易すぎです。

 あと不思議な事に、バケトンそのものの描写があまりにも少ないんですね。どんな場所なのか、あんまり想像できない。無論、主人公らも真夜中にそこに行ったのですから、大して周囲の状況は見えないんでしょうけど。
 バケトンの描写は、主人公らが「わめいて怖がる」のを読んで想像するしかない。
 でも「うわあああああ!」「きゃあああああああ!」だの何度も書く人ですね、山田氏は。どの作品もそんな芸のない悲鳴が乱舞しています。もう少し何とかならなかったのでしょうか?

 でも後半は少しひねりが効いていて、楽しめました。
 バケトンでの恐怖のクライマックスから一変して、翌日の朝。恐怖体験をした4人の中の一人、高校生のは、友人にその時の話をする。そしてうらやましがるその友人に、今夜一緒に行こう、と話を持ちかける……。
 だが。舞は何かが違っていた……。


 文句としては、ラストの方で、先の4人の体験が悲鳴として、電源OFFのラジオから聞こえてくるのは、あまりにも物語すぎ。丁寧にその事故のニュースまで流されるのは……ガックリ。まるでリアリティを感じません。
 そして車の事故シーンも「もうだめだ! ああああああ!」「いやあああああ!」で締めくくられ、怖いというより笑ってしまう出来。

 ですが、二転三転して迎えるラストはなかなか気持ち良く怖がれます。
 ただせっかくの怖いシメの言葉を迎える直前に、ややこしい言い方の文があり、気をそがれました。
 読んだ方にかわからないでしょうけど、「二人が次の台詞を言う前に〜」という文がややこしかった。ここは簡潔に素直に書いた方が、シメの言葉が生きたかと思います。(って、シロウトの僕が言う事かぁ……?)

●「写真メール」
 輝は死体の写真を撮りたかった。その機会をうかがっていたが、なかなか訪れるハズもなかった。
 輝は自分が異常者である事を自覚していた。そして昆虫を火であぶったり、解剖したりするのを趣味としていた。
 そんな輝にも友人がいた。福田という、まんが喫茶で知り合った、同類の友だった。輝は福田には、自分が死体の写真を撮りたい旨を告げていた。
 そんなある日。輝はとうとうそのチャンスをモノにした。
 近所で殺人事件が起き、行方不明になっていた少年の死体が、まだ世間に発見される前に、目にする事ができたのだ。
 公園のすぐ近くにある林の中。そこで遊んでいた子供に呼びかけられ、輝は初めて、人間の死体をその目にした。
 写真を撮り、早速福田に見せる。しかし、福田はそれを見た瞬間、拒絶に近い反応を見せた……。


 輝という異常者。その描き方が面白かった。何だか会話にも活き活きさが感じられました。(?)
 そしてラストもなかなかひねられていて、これまた気持ち良く怖がれました。
 ただ主人公の名前がで、死んだ子が(コウ)、というのが意味なくかぶってます。意味なく、ややこしい。
 あとタイトルの「写真メール」はあまりにもつまらないタイトルだと思うのですが。
 近年は「本のタイトルを平易にするのが好まれる傾向にある」と目にした事があるのですが、僕個人としては全然そうは思いません。例えば「初恋」「明日」「恋人」などというタイトルの本が手に取りやすい、と世間一般では思うのかもしれませんが、僕はまるで興味をそそられません。

●「黄泉の階段」
 僕は貧乏で、彼女の由美子に大した事もしてやれないまま、過ごしてきた。でも今日は違う。今日からは、たまにはおいしい物を一緒に食べに行く事に決めたんだ。
 そして今日は給料日。由美子とイタリア料理を食べに行くんだ……。

 そんな僕のワクワクした気持ちとは裏腹に、待ち合わせの時間になっても、由美子は訪れなかった。
 気をもんでいると、電話がかかってきた。由美子と共通の友人である、舞美からだった。
 「由美子が、車にはねられて、重体なの!」

 まさかとは思ったが、それは事実だった。
 そして由美子の運ばれた病院へ急ぐ。しかし……由美子は言葉少なに、息絶えてしまうのだった……。
 だが僕は、由美子に重大な事を隠したままだった。それを告げないままでいるのは、耐えられなかった……。


 はっきり言って……、駄作だと思いました。失礼すぎますけどね。
 何が悪いのか、と言えば、もう「最初の設定から間違っている」としか思えないほど、どうしようもない話としか言えません。

 まず、愛する恋人が死んだ。そして僕はダメになっていった。……この辺の描き方は普通の話ですが、そんなに悪くはなかったんですね。
 しかし、友人の舞美に「死んだ恋人にもう一度会わせてくれる神社がある」と聞かされた辺りから、話は狂ってくる。
 まず、その話自体があまりにも都合よすぎ。イッキにリアリティが吹き飛びます。おとぎ話です。
 そして東京から静岡に行き、頑張ってその神社を探します。
 ところで主人公が「由美ちゃん、由美ちゃん」といちいち、ちゃん付けしているのが情けなく感じたのですが、それはそれで一つの伏線だったのかもしれませんね。ラストにどんでん返しが用意されていますからね。

 そしてやっとの事で辿り着いた、黄泉(よみ)の神社。
 しかし何時間待とうが、死んだ由美子が現れる気配はなかった。まぁ夜半すぎまで半日以上も、そこでじっとしている主人公にも何かしら問題があるような気もするのですが。
 だいたいにして、主人公、ヒトの話を聞かなさすぎです。どうすれば死んだ恋人に会えるのかも聞かないでそこに来て、ただじっと待っているだなんて……変です。

 そしてこの物語、最大最悪のシーン……。
 『愛する者を失いこの神社に再会を願うそこの者よ』
 と、神さまらしき者の声が聞こえてきた……。うわぁ……という感じです。
 いやいや、次がもっと輪をかけてひどい。

 『それでは本当に彼女を愛していたのかどうかを試させてもらう』
 階段の一番下まで降りるよう、言われる。
 『それではこれより彼女についてお前に問うていく。お前は答えていくごとに階段を一段上がって行くがよい。もし一つも間違う事なく神社まで辿り着ければ、彼女に会えるであろう……』
 そこからなんと! クイズが始まるのです!!

 うわぁ……。何ですか、これは。
 『彼女の生まれ育った場所は』
 『彼女の生年月日は』
 『彼女の持っていた携帯電話の色は』
 ……はぁっ?! 神さまそんな事聞いてどうすんの?! という感じです。
 でも主人公はそれらの難問を全て、見事に正解していきます。……あぁもうダメだ。何だ、この話は……。

 『高校の卒業文集で彼女が語っていた夢は』
 『彼女と初めて会ったのは、何月何日か』『待ち合わせ時刻は』『その時の彼女の、第一声は』
 ……もはや質問が異常です。

 『初めて二人で食事に行ったのは、何月何日か』『彼女が最初に注文したものは』
 「蟹クリームパスタ」。そんな質問にまで正確に律儀に答えていく、ある意味こっちも異常すぎる主人公……。
 僕だったら、「何言ってんだこの野郎! そんな事聞いてどうすんだ!」……という感じですね。神さまの性格を疑わずにはおれません。

 突っ込みどころが満載の……とんでもない展開を迎えています……。
 ……あぁもうダメです。書きすぎて疲れました。この後は皆さんの目でお確かめ下さい……。
 せっかく用意されたラストも、もう目に入りません……。
 総評としては「何これ?」という感じです……。あの質問部分をごっそり削ってしまえば、まだ少しはマシな話になるかもしれませんけど……。
 でもこれも、設定自体が間違っている気がします。話として、安易すぎるのです。ひねりが別の方でされてあっても(ちょっとしたどんでん返し)、物語の基礎がうまくないので生きてきません。

●「ジェットコースター」
 達也は恋人の美沙と遊園地に来た。
 そしてジェットコースターに乗った時、まさかの悪夢が始まった……。


 僕もジェットコースターは苦手です。嫌いです。怖いです。 
 で、最初はジェットコースターの故障か、と思ったんですが、そうじゃないらしい。怪しい黒スーツの男達の影がちらつく。そして搭乗者たちはあろう事か、ジェットコースターの最上地点で宙吊りにされてしまった……。そこで最後の一人が生き残るまで、14人の人々は理由もなく、デスゲームをさせられるハメとなった……。

 僕はジェットコースターの故障の方が、もっと面白怖い話が書けたと思う。いつまでも疾走し続けるコースター。叫び続け、狂いはじめる乗客達。何とか逃げ出そうにも、とてもじゃないがそこからは逃げ出せない……。
 だから、コースターが止まって宙吊りにされ、「意図的なデスゲーム」という形になってしまって「もったいないなぁ」と思いました。
 いきなり、「バトルロワイヤル」になってしまうんですから。
 少しまた「何これ?」という感じになりました。

 なんだかんだでまた、ラストにはどんでん返しのようなものが。あんまり意味のないどんでん返しなんですが。
 で、そのデスゲームを堪能(たんのう)していたのが、政府の官僚らという、これまた安易なオチ……。無くていいです、こんなオチは。
 あと、コースターの最上点にいて、地上にいる人が「点にしか見えない」と言っておきながら、人が落ちて死ぬシーンでは血が流れるのまで確認してしまうのだから……ウソっぽい。

 最初に挙げたように、「惜しかったな」と思う一編でした。コースターの怖さに絞れば良かったのに……。

●総評

 気持ちよくツッコミまくりましたが……ファンの方は気分を悪くされたかと思います。
 でも、僕はお世辞を言うのが嫌いだし、思った通りにしか書きませんので。気を使って、ウソも言いたくはありませんでしたし。
 僕の感想としてはこんな感じになりました。「そこそこ」という感じ。
 さすがプロですので、場面場面の描写は上手いんですけどね。設定がどうも、僕には合わなかった。

 バケトンが魅力の、表題作「8.1」もいいんですが、「写真メール」が僕的には、一番良かった気がします。主役が生きていました。


 メドゥサ、鏡をごらん ―― 井上夢人

 ホラー度:★★★☆☆
 面白さ: ★★★☆☆

 (一言: とにかくタイトルに惹かれた作品。そしてまた、物語の仕掛けも大胆で驚く。しかし、賞賛はできない。僕にはこの本を理解しきれていない。首をひねる部分もあるが、不思議な魅力がある作品)

●あらすじ

 作家、藤井陽造は、怪死した。
 自宅のガレージ内で、全身をセメントで塗り固め、石像と化して死んでいたのだ。
 そして、セメントを割られた際、彼の腰に埋められていた小ビンの中から、メモが出てきた。それには、こう書き残されていた。

 ――メドゥサを見た。

 彼の娘、奈名子とその婚約者であるは、藤井陽造の怪死の謎を探るべく、彼のノートに書き残されていたメモなどを頼りに、その真相へと近づいていくのだった……。

●読んでみての感想

 タイトルに惹かれて購入。個人的にはひどくツボを突かれた感じのタイトルです。タイトルを見ているだけで胸が沸き立つような。
 さて、一体どんな話なのか。怖がらせてくれるのか、衝撃を与えてくれるのか、果たして面白いのか。読んでみます。

 とは言え、井上夢人さんの本は以前も数冊読んでいるんです。岡嶋二人、名義で出した本も。僕は氏の本の中では一番「クラインの壺(つぼ)」が好きなんですけどね。バーチャルリアリティのホラー話。はっきり言って凄い好きです。これもいずれは、腰をすえて紹介したいです。

 井上夢人さんの書き方、というのはちょっと大胆なところもあるか、と思います。時には、話を大きく壊そうとしてくる。とんでもない仕掛け、というのがなされているワケですね。
 だからこそ、これは失敗作なんじゃないか、というのにも出会った気がします。大きく壊しすぎて、読者を萎えさせてしまったり。あんまりやりすぎると、物語のリアリティそのものをも壊してしまう。現実話として読んでいたハズなのに、その一節で夢物語に転じてしまう。

 ……早い話、この「メドゥサ〜」にも、そういった仕掛けがなされていたんです。だからこそ、この本は評価が大きく分かれるらしい(本中、解説より)。5段階評価で言えば、2か5だという意見が多いとの事。
 で。僕としては、実は2なんですよ。
 この本を絶賛したくて紹介しようと思ったワケじゃないんです。


 ……ただ、駄作だと言い切る気もない。妙にこの本は胸に残るんです。読後も引っかかる部分が多い。また読み直して理解してやろう、という気にすらさせるんです。
 実際、この本は途切れる事なく、1日で読みきってしまったんです。僕としては非常にまれな事です。数ページづつ、数日数週間かけて読むのが僕のスタイルなので。


 物語がうまく収束しているのかどうかも疑問なんですが、それが僕の読解力の限界なのかもしれません。もっと物語を突き詰めて読めば、もっと見えてくるものがあるかもしれない。
 ただ、このような物語には出会った事がない、とは言えますね。僕の読書量などはたかが知れていますけどね。
 で、この世に初めて出るもの、というのは得てして誤解を招きやすい。理解もちゃんとなされない。ずっと後になってから、賞賛されるような場合もある。この本もそういった中に入るのかもしれません。

 でも素直な感想としては、「よくプロがこんな大胆な賭けに出たもんだ」と思いました。この本に仕掛けられた謎に関して、その発想としては、アマチュアに近い。僕も似たような話を以前に書いた事があるので、なおさらそう思ったんです。
 でも、プロはそこで終わらない。その仕掛け以降も物語は続く。どう収束させるのか、僕はじっと追っていき、最後には何だか言いくるめられた気持ちにさせられました。衝撃は受けませんでしたけどね。
 で、この作品は、物語にトリックを使っているのではなく、本そのものに仕掛けがしてある感じなんですね。

 結果として、みなさんにぜひ読んでほしい、とは言いません。こういった物語もあるんだよ、という紹介にとどめておきます。
 この本を読むのなら、氏がコンビを組んでいた時に書いた「クラインの壺」を読んだ方がわかりやすいし面白いし、怖い。バーチャルリアリティの描写も非常に心地よい。ゲーム世代ならすんなり入っていけるかと思います。
 ただ、やはりこの「メドゥサ〜」は、何か引っかかりますね……。また読んでしまいそうです。

 作中で明かされるメドゥサそのものに関しては、ちょっと安易かな、とは思いましたけど。何となく、素直すぎる気がしました。まぁその辺をひねって難しくしても、意味はないんでしょうけどね。

 ただ、こういった物語を仕上げるには、やはりアマチュアにはムリだな、と思いました。一部、アマチュアの発想が織り込まれている気もしますが、やはりそれより一歩深く、踏み込んでいる。
 この井上夢人さんは考えて考えて考えて……作品を作り上げている気がするんですね。まるで職人のように。
 その辺の気質に、僕はやはり惹かれますね。でもこの作品は冒険しすぎ、のような気もします。


 GOTH(ゴス) リストカット事件 ―― 乙一(おついち)
 (情報提供: メリーさん 2005年)

 ホラー度:★★★☆☆(序盤:★★★★☆)

 (一言: 主人公達の暗い魅力にひきこまれる。6つの短編から構成されていて、読みやすい。最後まで読まないと、この作品の凄さはわからない。でも、冒頭の1、2章は単独でもずいぶんと面白くて、怖い)

 ●はじめに

 掲示板にて、メリーさんから、作家 乙一さんの情報を戴きまして、この本を手にとってみました。まぁ情報を戴いてから、数週間はかるく経っているんですが。

 この本の帯によれば、「このミステリーがすごい!」2003年度 2位、という事でした。
 でもそれって、自社企画?とか思ったら、これは宝島社が毎年刊行している、ベストセラー本のタイトルである模様。数々の作家が、感銘を受けた素晴らしいミステリー本を自薦する、といった感じのものみたいです。これで選ばれたものは、相当な名誉に値するんでしょう。

 検索ついでに見つけた個人サイト「AKASHIC RECORD」さん( http://jack-e-web.hp.infoseek.co.jp/index.html )によれば、この作品は、先の受賞の他、
 「2003 本格ミステリ・ベスト10」(原書房)で第5位
 「Yahoo! ブックスの2002年ベストミステリ」第1位
 なども受賞しており、かなりの高評価を得ている様子。読後に調べたんですけどね。

 ●感想など

 (主人公。男子高校生)とその奇妙な女友達、森野 夜は、感覚が常人とはズレていた。
 二人は「死」に関わるものに強くひかれ、異常犯罪などに強い好奇心を持っていた。
 そして犯罪を犯す人間にも、強い興味があった。

 そんなある日、森野は主人公に手帳を差し出してくる。拾ったものだという。
 何の手帳かと思って読んでみると、それには人を殺した経緯が、日記調で細かく書き記されてあった。
 それは現在、世間で騒がれている、猟奇犯罪の内容に酷似していた。そしてその犯人はまだ、不明である。そしてそれには現在報道されていない、三人目の殺しについても書かれてあったのだった……。
 その手帳は、殺人犯のものだとしか思えない。
 それを確信に変えるため、主人公と森野はその手帳に書かれてある、三人目の死体を捜しにいった……。 


 そんな出だしですね。
 この小説は6つの短編が一つの長編になるように構成されています。1編ごとに話が区切られてあるので、読みやすいです。作者としても、長編にしようとして書いたワケではなかったようなのですが(あとがきにて)。
 で、この小説は「ザ・スニーカー」に掲載されたものなんですね。「スニーカー」というと、ちょっとアニメよりのファンタジーもの、みたいな小説誌のイメージがあったんですが……、このGOTHを産むきっかけになったというのですからスゴイですね。
 と言いますか、凄い小説っていうのはどこで産出されたものであっても、やはり日の目を見る、という事なのでしょうか。全くして、正統的なミステリー誌とはかけはなれた雑誌ですからね、スニーカーは……。
 乙一氏のデビューも「ジャンプノベル」という変わったところから来ているようなんですけどね。


 正直な感想を言いますと、1章と2章が凄く怖くて、そして魅力的でした。
 怖いのは直接的なスプラッター描写が主、なんですけどね。異常殺人鬼を目の前にしてのやりとりも、なかなか不思議な怖さがありました。主人公らの感覚もズレているので、なかなか重苦しく読めました。主人公らが普通の感覚だと、全然つまらない話になっていたんでしょうね、きっと。

 中盤の話はちょっと中だるみしたかな、という気がしました。感想としてはそこそこ。
 そしてラストの話もそんな空気をひきずっていました。僕は疑問でしたね。どうして、主人公と森野の話を進めていかないのだろう、と。
 1章ごとに、新たな主人公を作っちゃっているんですね。だから話としても章ごとの新鮮さはあるものの、せっかくの魅力的な主人公達の話が進まない。全然関係ない話が進められていって、それに主人公らが関わるスタイル、なんですね。それはそれで上手いのかもしれませんが、ラストの方ではかなり、主人公らが希薄な存在になってしまっているように感じました。感情移入どころではなかった。ずっと脇役扱いでしたからね、主人公らが。
 実際、せっかく読んだのはいいけど、紹介はやめておこうか、とまで思いました。


 でも、最後の最後……。大きな事をしてくれたんですね、この乙一さんは。
 そこを目にするなり、全身が震えました。そして久々に、衝撃というものを与えられました……。
 「これが本当のミステリーというものなのか!」と、非常に大きな感銘を受けたワケですね……。

 何もかもを忘れて、感心しながら読み終えました。
 さすがプロだ、と思いました。さすが薦められただけはある、と思いました。……まぁホラーじゃなく、ミステリー部分に衝撃があったワケですが。
 で、その衝撃も良かったのですが、やはり前半は怖くて面白い。引き込みはかなりいいと思います。前半2章だけでも充分に価値はあります。中盤は賞賛しませんけどね……。生意気ですみませんが。


 ネタばれになりますが、何故、僕が中盤を賞賛しないかを、少しお話しさせていただきます。読後にどうぞ。

 ●3章 犬
 いきなり犬の視点で物語が語られているのが嫌だった。犬が人間の感覚で考えるというのは、ちょっと賛同できかねますので。
 そして飼い主の少女との楽しかった思い出に犬が浸るのも……、何だかありがち。
 また森野が犬を毛嫌うサマも、ひどくマンガ的だった。なお、話のスジもどことなく読めるんですね、途中から。

 ……と不評を語ったはいいものの、これは僕の誤解だと判明しました。
 掲示板にて、雫さんという方のご指摘により、再度読み直してみると、犬の視点で物語が語られてはいなかったのです。
 ラストでの目を見張るどんでん返しに、僕が気付けなかったんですね。そのどんでん返しにより、物語は全く違った色を見せる事になるのです。
 エラそうに語ったぶん、恥ずかしいです。(よって、記事は直さずにさらしときます)
 僕ごときアマチュアに、不評を語られて終わるような作品ではなさそうです。この3章においては特に、参りました、と一言追記させていただきます。

 ●4章 記憶
 森野の過去についての話。森野には、夕という妹がいた。しかし妹は自殺で死んでしまっていた。
 何がマズかったのか、と言えば森野が実は森野夜ではない事が告げられるのだが、その重要性がよくわからなかった。なぜ名前をいつわる必要があったのか。全然わからない。
 で、今一度その部分を読んでみて、やっとわかりました。……だけど、ちょっと複雑じゃないかなぁ……? 飛ばし読みなんかしてたら絶対に意味不明です。ちょっと靴、とかね。話が細かいんです。
 それに、森野が姉を死なせてしまった時の恐怖描写が足りないのではないか、と思います。ほとんどその描写がないんですよ。……だから、森野が偽(いつわ)らねばならなかったのだ、という必然性が全然伝わって来なかったんですね……。

 ●5章 土
 最後に明かされるんですが、埋められたのが他人、というのは……個人的には弱い気がしました。話そのものが弱くなるんですね。
 かといって、ここでヒロインを殺してしまうのも勿体無い……。救出劇もありがちでつまらない。難しいですね。


 その他、僕は森野と主人公がどうからみあうのか注目していたんですが……、それはなかったですね。
 主人公が人を殺した、と思った時、なるほどなと思いました。やっぱりこういう風になってしまったのか、と。(悪い意味ではなく、それはそれで面白いと思いました)
 とすれば、ここはやはり森野と主人公がどうなってしまうのかを、僕は読みたかった。そして、この本で決着をつけてもらいたかった。できれば、森野に、主人公以上に恐ろしい存在になってほしかった……(?)。
 まぁ、そうはならなかったんですけど。

 とにかく、続編を書こうとすれば書ける内容だと思いますので、期待しながら待ってます。
 僕としては、主人公が殺人鬼になってしまい、家族との決別などを考え、その先、森野とどうなってしまうのか……などというものを想像していました。でもそれは、僕のようなアマチュアが嬉々として描こうとする、安易な流れなのかもしれませんね……。

 大きな衝撃も受けましたし、久々に「プロはやはり凄いな」と感銘を受けました。全くの死角から攻めてこられたので、ずいぶんふいを打たれました。
 最後の方は、全然ホラーじゃなくなっていましたけどね。
 最終章で突然湧いた、妹と姉のやりとりに、執着しすぎた気もします。ここはやはり、森野と主人公を強く描いてほしかった……。(そうすると、あの「衝撃」は描けなくなってしまうんですけど……)


 ネタばれついでに、賞賛部分も書いておきます。でないと、この作品を批判ばかりしているようにしかみえませんので……。

 ●1章 暗黒系
 今まであまり目にした事のない物語、というのにひかれました。主人公らが異常犯罪にとても興味を持ち、その犯人らを夢想し、近づきたいと願う……。この本のタイトル「GOTH」が意味するところの非常に大きな割合を、この1章が占めている、と感じました。
 死体を見に行く、と言えばあの有名な「スタンドバイミー」を思い出しますが、この作品はあれよりよっぽどグロくて、暗い。犯人も、普通の善人面している事が、逆に恐ろしい。

 ●2章 リストカット事件
 この本の副題でもある「リストカット事件」とは、この本のラストを物語っているのか、と思いました。要は、主人公が自殺して終わるのか?と。でも事件って何だろう……と。
 でも全然そうではなくて、手首を切断する異常者が、この2章に出てくるワケなんですね。その執着度合いはちょっとした映画などではありがち、な感じもしますが、何といっても見所は、その犯人が自分の家を荒らした者を見誤るところですね。これは非常に面白かったです。
 主人公の鋭さは、マンガ「DEATH NOTE」の月(ライト)を思わせるものがありました。


 掲示板にて、メリーさんより、作家 乙一さんの推薦を戴いたワケですが、僕が読んだ「GOTH リストカット事件」の感想は以上のようなものとなりました。ちょっと賞賛と批判が入り乱れていますが、面白かったのは確かです。
 読んだ方にはわかってもらえるかと思いますが、絶対に映像化できない作品、というのがいいですね。小説というものの意義を、再確認できます。
 
 改めまして、乙一さんをご紹介くださって、ありがとうございました。


 七つの怖い扉 ―― 阿刀田 高、小池真理子、鈴木光司、高橋克彦 他
 (新潮社)

 単行本 平成10年10月発行
 文庫本 平成14年 1月初版発行
 
 ホラー度:★★★☆☆

 (一言: 高名な作家達が恐怖をつづった短編集。阿刀田 高氏の「迷路」を非常に気に入りました。残念ながら、その他は…あまり感銘を受けなかったのですが)

 本中、一番のオススメは、阿刀田 高 氏の「迷路」。

 「私」は幼少の頃、ほんのいたずら心から、女の子を自分の家の古井戸に落として、死なせてしまった。
 冬。雪で井戸を隠し、落とし穴としたのだ。そして女の子は井戸の底で動かなくなった。誰にも言えず、そのままにしていた。その数日後、女の子の姿は井戸の底から忽然と姿を消した。

 (あれは夢だったのかもしれない……)。大人になり、私はそう思ったりする。
 しかしそんなある日、私は弾みでまた、人を殺してしまった。そして井戸に放り投げる……。すると、期待した通り、数日経つとその死体も消えうせたのだった。
 この井戸の秘密は何なのか……。


 他、良かったのは夢枕 獏(ゆめまくら ばく)氏の「安義橋の鬼、人をくらふ語(こと)」。
 今は昔。近江(おうみ)の国の守(かみ)、藤原 頼信(よりのぶ)の館にて、近在の若い者たちが集まり、その日も宴会をしておりました。
 そんな中、安義橋に出る鬼、というものが話題になり、源 貞盛(さだもり)という男がその話にケチをつけた事により、肝試しとしてそこに行ってくるよう、皆に押し付けられるハメになりました。
 さて、どうなる事か……。結構ありがちな話に聞こえそうですが、かなり面白いです。何だか、会話が面白い。妙に人間くさい意地の張り合いなどが心地よく、読んでいて楽しかった。もちろん、ホラーとしての出来も素晴らしいものがあります。


 魍魎の匣(もうりょうのはこ) ―― 京極夏彦
 (講談社)

 1995年1月 初版発行(ノベルス新書版)
 近年、文庫版も発刊中。

 ホラー度:★★★★
 面白さ :★★★★★

 (一言: まず、本がぶ厚い。内容も非常に濃い。「妖怪」を描きつづける京極氏。しかし単なる幻想小説ではなく、怪異にはすべてからくりがある。つきものをおとす京極堂、その他の人物も魅力的。僕的には、美しい少女がおさまったハコ、というビジュアルに魅せられ?この作品を推します)

  「誰にも云はないでくださいまし」
  男はさう云ふとの蓋を持ち上げ、こちらに向けて中を見せた。
  の中には綺麗な娘がぴつたり入つてゐた。

  日本人形のやうな顔だ。勿論善く出來た人形に違ひない。人形の胸から上だけがに入つてゐるのだらう。
  何ともあどけない顔なので、つい微笑んでしまつた。

  (冒頭部分より抜粋)


 上記のような文体は、時折見られる雰囲気作りのために用いられるだけで、全体的にこういう文体ではありません。普通の現代文の小説です。
 この作品は1952年前後が舞台。昭和20年代。
 作中のキーワード、「ヘルシンキオリンピック」(1952年)、そして、黒沢 明「羅生門」が昨年に外国の賞をとった、とあります。(1951年、ベネチア映画祭でそれがグランプリを受賞)

 で、この本はやたら、ぶ厚いです。中身も、非常に濃い。僕も数週間かけて、読んだ記憶があります。
 登場人物は、主役で作家の関口を中心に、編集者の鳥口、刑事の木場、そして京極堂という面々。
 特に魅力的に描かれているのが、京極堂。それは愛称で、本名は中善寺秋彦。だが、ほとんど中善寺という名前は出て来ない。「京極堂」というのは、その男が営む古本屋の名前。また彼は、神主であり、陰陽師(おんみょうじ)でもある。
 「この世にはね、不思議なことなど何ひとつないのだよ。関口君」
 と彼は言う。この言葉を元に、作中もやたら、不可思議な事の謎解きが口頭で語られる。会話部分が長い箇所もあり、うんちく嫌いの方は読むのに疲れると思われる。だが、ハマッてしまえばこれほど心地よく、面白いものもない。


 もっと簡単な紹介をすれば、「妖怪小説」なんですね。この作品は特に「魍魎(もうりょう)」という妖怪を描いている。それに加えて、「匣(はこ)」というキーワード。ハコに入った美少女、というのがこの作品のキモかと。

 深く読んで、ぜひみなさんにもハマッていただきたい世界ですね。
 「この世界に浸っていたい!」と思わせてくれた、超一流の作品でした。京極氏はまだまだネタに尽きないようで、次々と新たな世界を描き続けていってくれています。読むのもやたら大変ですが、それだけの価値は充分にある作品ですね。


 クリムゾンの迷宮 ―― 貴志 祐介
 (角川ホラー文庫)

 ホラー度:★★★★
 面白さ :★★★★★

 (一言: 気がつくと、見知らぬ世界にいた。異世界と見まごうばかりの世界だが、そこはれっきとした現実世界。外国なのだ。そこで繰り広げられる死のゲーム。果たして主人公は生きて帰れるのか? /ゲーム感覚で読んでいける。中盤以降、恐怖は加速していく)

 藤木芳彦は、この世のものとは思えない異様な光景のなかで目覚めた。視界一面を、深紅色に濡れ光る奇岩の連なりが覆っている。ここはどこなんだ? 傍らに置かれた携帯用ゲーム機が、メッセージを映し出す。
 「火星の迷宮へようこそ。ゲームは開始された……」それは、血で血を洗う凄惨なゼロサム・ゲームの始まりだった。
 (本書、裏書きより抜粋)


 「黒い家」「ISORA―十三番目のペルソナ」「青い炎」などで有名な、貴志 祐介(きし ゆうすけ)氏の文庫書き下ろし。
平成11年に初版発行。のち、愛蔵版も刊行。(僕は両方持ってます。この作品が好きなので)

 貴志さんの小説はリアリティがあるんですね。
 「黒い家」や「青い炎」は現実の枠を出ていませんし、この「クリムゾンの迷宮」も火星かどこかを思わせる大胆な舞台かと思いきや、実は外国。現実の範囲内にあるんですね。
 いやいや、そればかりではなく、物事の裏づけがスゴイ。一つ一つを非常にていねいに調べ上げて、物語に深みをもたせているような気がしました。
 クリムゾンの迷宮では食料が尽きた時、現地に生息するイモムシなどを食べたりするのですが、それを焼くとなんだか美味そうなんですよ。
 貴志さんの小説は怖いだけではなく、楽しい。特にこの「クリムゾンの迷宮」はRPGゲームをプレイしているような感覚で読めるので、とても楽しかったですね。
 しかして安易なファンタジーものではなく、基盤がしっかり現実に根ざしているんですね。

 僕のお気に入りの一冊です。


 ドグラ・マグラ ―― 夢野久作

 ホラー度:★★☆☆☆

 (一言: 幻想怪奇小説。途中から、「狂人の書いた探偵小説を読む」という形になる。読んでいて頭が混乱)

 カルトな人気をほこる、と思われる「ドグラ・マグラ」。
 これを読む者は、一度は精神に異常をきたす、と云われている、とか。
 昭和10年に、自費出版したのが始まり、という話です。確か、あの「リング」も自費出版から始まったんですよね。あんまり有名になりすぎて、飽きちゃった気もするんですけど。結局シメの「ループ」は映画化されませんでしたね。小説もなんだか、首をひねるデキだったんじゃないかなぁ……。衝撃を狙いすぎて、SFになっちゃってましたよ?

 で僕は、自力で名作を発掘しようという意思がなく、よく「特選」本を読みます。まぁ、そういう人多いと思います。駄作を読み漁って、時間をムダにしたくはないですもんね。
 遠藤周作さんも言ってますよ、「一流を知れ」と。一流は、他を凌駕する。云わば、大は小を兼ねる、んです。
 もちろん、隠れた名作というのはそこかしこにうずもれている事でしょう。しかし、人間の生きる時間というのは限られている。そして、本の大切さに気づいた頃には、もっと時間が無くなっている……。

 で、読んだのが「打ちのめされるような すごい小説」(富岡幸一郎)。(2003/6/24 第1刷発行)。そこに、この「ドグラ・マグラ」が紹介されていて、僕はたまたま昔読んだ事もあり、こうして紹介してみよう、という気になったのでした。

 今は角川書店から文庫本が出ていますが、表紙がどうにもイヤらしい(半裸の女性がやらしいポーズ)。正直、好きな表紙ではありません。でも、仕方ないんだけど……。
 で、この小説はビデオ化にもなっています。これまた表紙がイヤらしい(変態っぽいカラミ)。でも、中身はそんな事もなく、まとも。忠実に、「ドグラ・マグラ」を映像化した印象を持っています。衝撃はなかった気がしますけどね。
 この本は上下巻ですが、読む気力のない人はビデオでも充分に内容がわかるかと思います。そうとうの旧作ですけどね。

 どういう話か、と言いますと、記憶を失っている主人公が、見知らぬ部屋で目覚める。で、隣の部屋から「お兄さま」としつこく叫ぶ女の声が……。
 よくありがちな話、な気がしますが、何たってこの本は昭和10年出。歴史が文句を言わせません。また、隣の部屋に狂女を置く辺りが、まともじゃありません。すごい。
 で、話はどんどん変な方向へ……。途中でホント、ワケわかんなくなります。根性ないときっと途中で投げ出す事でしょう。

 まぁ、気が向いた時にでも、どうぞ。なんたって、昭和10年モノですからね。ここ数年ほったらかしていたところで、何も変わりはしません。

 日本残酷物語 ―― 山口 椿
 (日本文芸社 刊)

 ホラー度:★★★★☆

 (一言: 恐怖短編集。どの作品を読んでも、傑作と思える恐怖ぶり。残酷描写が多い)

 鬼のくれた女/染殿の后/愛護の若/玉鶴姫の死/恐怖の将軍/など、全16の恐怖短編集。
 どれを読んでも残酷で、恐ろしい。
 最後を飾る、九相死絵巻という作品なども傑作。どの作品も、昔の戦国時代を舞台にしており、雰囲気もバツグン。
 でも、同氏の「少女残酷物語」は、残念ながらそんなに面白くはなかったです。



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